明石です

ビデオドローム 4K ディレクターズカット版の明石ですのレビュー・感想・評価

5.0
深夜にハードコアポルノを流して視聴率を荒稼ぎするTV放送局の男が、拾った電波から偶然流れてきた”ビデオドローム”なる拷問映像(赤い部屋みたいな)を観たことで、拷問映像の中毒に陥り、現実と幻想の見分けがつかなくなって人殺しに走るお話。なんたる名作!!と初っ端からラストまで感動しっぱなしでした。

初鑑賞から約5年ぶりに、4KのDC版を京都の出町座で鑑賞。J·Gバラードの小説みたい、と思いきや、クローネンバーグ監督の完全オリジナル脚本だと知った時の驚きときたら。しかもこの脚本を書くために、机しかない部屋をひとつ貸し切ったとか。初めて観たときは、ワケわかんない映画だ!と呆気に取られた覚えがあるけど、今回は意外とストレートだなと感じた。

まず映像面でとっつきやすいのが◎。クローネンバーグの前作『スキャナーズ』に引き続き、特殊メイクを担当した同分野の神様リックベイカーが創作したエフェクトに目を奪われる。幻覚に侵された主人公が、性器を思わせる卑猥な形にデフォルメしたお腹の中へ手を突っ込んだり、恋人の唇が映ったTVスクリーンに顔をうずめたり、はたまた、銃で撃ち殺した相手の体がドロドロに溶けて爆発したり。ホラー映画ファンにとっては、それだけでも見てよかったと思えるようなえげつないシーンが要所要所にあって親しみやすいなと。

それからテーマも素晴らしい。『ラビッド』しかり『シーバース』しかり『ザ·フライ』しかり、科学をモチーフにした作品の多いクロネンのフィルモグラフィの中では、メディア論がテーマとのことで、コチコチの文系脳の私にも馴染みやすく、おまけに、公開当時よりも現代の方がはるかに理解されやすい作品だろうなと思う。なにしろ80年代初期は、メディア=TVで、コンピュータは普及しておらずインターネットなど想像さえされていなかった時代。おそらくこの作品で描かれている「メディアが人間の脳をハックしてしまう」というアイデアは、先見の明に溢れすぎていたのでしょう。今ではそれこそ誰のポケットにもソーシャルメディアを筆頭に複数の「メディア」が鎮座マシましてるわけで、脳内がメディアに侵され、場合によっては洗脳に近い状態にある人も珍しくない。まさに時代が後追いで映画に追いついたような作品ですね。

実際にクローネンバーグ監督本人も、2000年代に入って発売された本作のDVDの副音声で「作っていた当時は自分でも意味不明の映画だったが、今、見直すとすんなり理解できるので驚いた」と語っているとのことで、私の感想もあながち個人的なものではないのかもしれないなと思った。初めて観たとき、ワケ分からんけどなんか名作っぽい、とふんわり思っていた作品を、数年後に観返すと(それも4Kのリバイバル上映を映画館で!)、理解できる超面白い映画、に変わっていた感動を噛み締めながらレビュー書いてます。

上映最終日の前日にミニシアターに駆け込み鑑賞したのですが、けっこうお客さん入ってて驚いた。京都には変態的な映画ファンが多いのかな笑。帰りにシアターに併設されている本屋さんでクロネン関連の本を買った(買ってしまった)ので、最新作『フューチャー·オブ·バイオレンス』に備えて、今から読み耽るぜ〜。

—好きな台詞
「彼らにはあなたにないものがある。哲学よ。だから危険なの」
明石です

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