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ミンナのウタのTSのレビュー・感想・評価

ミンナのウタ(2023年製作の映画)
3.5
【「音」に注目したのが良かった】75点
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監督:清水崇
製作国:日本
ジャンル:ホラー
収録時間:102分
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 2023年劇場鑑賞34本目。
 結構期待していた作品。まず言えることは、ここ最近のJホラー映画としてはダントツで良い出来だと思います。古き良き『リング』や『呪怨』に近いJホラー特有のジメジメとした怖さがあり、自分好みでした。ただ、ホラー映画に辛口な自分からすると評価はこのあたりで落ち着いてしまいます。他の方も思われるかもしれませんが、今作のピークは中盤であり、後半からはやや失速していきます。後半にもう一捻りあれば、Jホラー映画界に残る名作となり得たかもしれないのに。惜しいです。ただ、中盤だけに絞れば近年稀にみる怖さだと思うので『犬鳴村』あたりで怖いと思っている方は要注意です!

 某ラジオ局の倉庫に30年放置されていた便りがあった。その便りには謎のカセットテープが添付されていたのだが。。

 まず、今作の主演はGENERATIONSなので、GENERATIONSのファンであれば問答無用で必見の映画になるでしょうし、加えてややきつめのホラー要素があるわけですから満足の一品となるでしょう。この感想文を書いている時点でのフィルマの平均スコアが4.0なのも、おそらくGENERATIONSのファンの方が底上げをしているからでしょう。自分は特にファンでもないのでこのあたりの要素を切り取ってなるべくフラットに考えていきたいと思うのですが、そこを切り取ってもなかなか良い作品だったと思います。まず、原点回帰といいますか、背伸びせずにしっかりとジメジメとした怖さに特化したのが良かったです。その中で、「音」に注目したのが賞賛に値します。やはり、生物の根源的恐怖となる要素は「音」なんですね。この音を巧みに使えばいくらでも怖がらせることができます。ただ、巧みになので無闇に爆音で驚かせるだけでは意味がありません。思い返せばここ数年のJホラーが本当に酷かったことよ。どれがとは敢えてあげませんが、わかりきった演出、そして効果音の無駄遣いなど。Jホラー映画界はどんどん衰退の道を辿っていたような気がします。そんな中、今作は30年前に届いた「カセットテープ」という気味の悪いアイテムを使用してきます。なるほど、これ程「音」に特化したアイテムはそうそうありません。再生するとともに聞こえてくる奇妙な歌、そして音。また、カセットテープ特有の特徴が含みを持たせています。鑑賞者が本能的に聞きたくない厭な音。このあたりは素晴らしかったと思います。

 また、清水崇監督だからというのもありますが、ありふれたとある場所を恐怖の場所に仕上げたのも良かったです。それはどこかというと「玄関」です。これは個人的には大事な要素と思っています。「玄関」というのはその空間の入り口でもあります。まあ普通の玄関ならば良いのですが、仮にその玄関がある家が、曰く付き問題の場所ならば鑑賞者はどう思うでしょうか。玄関の先は完全にあちら側の領域ですから、隔離され逃げ場がないという心理に陥ってしまうのです。これは同監督の『呪怨』で証明されており、改めて玄関付近で起こる怪異は怖いものだなということが理解されました。ちなみに今作で僕が一番怖いと思ったシーンはこの玄関で起こります。ちょっと笑ってしまうくらい怖いシーンだったのですが見られた方はどう思われましたか?笑

 このあたりの要素を巧みに活用していたので、近年稀にみるほど出来の良いJホラーと思えました。だからこそ、後半あたりの失速が悔やまれます。そもそもこういう映画を見に来ている方は、ホラー映画にハッピーエンド寄りの展開は期待していません。後味の悪いラストを期待している人がほとんど。確かにそのお作法は知っているようで、一応なけなしのような設定があるのですが別に怖くありませんし知れている後味の悪さです。この要素に関しては『リング』に勝る作品はないと思っています。で、もう一つは『呪怨』の設定をモチーフにしたと思われるのですが、あれ程気味の悪い一家を登場させたのですから、もう少しあちら側の「怨念」を描いてほしかったです。あれでは本当によくわからない一家が何かしているぜ、くらいしか思えないわけで恐怖度は下がります。確かにキーパーソンである「高谷さな」の変わりぶりは過去の回想などで垣間見ることができましたが、あれだけであのような異界の存在になってしまうには、説得力が足りないといいますか。。せっかく不気味な設定をつくりあげ、かつそれを「カセットテープ」というややレトロな代物を媒介として広げていっているのに、その根源的な要素がスカスカであれば勿体無いことこの上ないです。

 と、たらたらと文句を言いましたが、最初に申し上げたようにここ最近のJホラーではかなり良い部類に入ると思いましたので、今夏怖い映画を映画館で観たい!という人にはオススメできる作品なのではと思いました。少なくとも「怖くないしアホらしいから見に行く価値なし」と吐き捨てるようなJホラーではないと思います。そして今作を起爆剤としてもっと質の高いJホラーが生産されていけば嬉しいですね。
TS

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