しゅんと

恋人のいる時間のしゅんとのレビュー・感想・評価

恋人のいる時間(1964年製作の映画)
3.8
 ある人妻を徹底的に観察した映画。言ってみれば人妻の行動分析映画。とはいっても人妻は同時代の類型的な若い女性だ。この主題が最優先事項であり、ゴダールは物語を必要とはせずに、分析的描写の形式のもとで主題と正面から取り組むのである。よって古典的な作劇法やサスペンスに満ちた場面演出や編集を回避している。同じ性格の映画の例を挙げると「彼女について私が知っているニ、三の事柄」がある。
 ゴダールの映画は観たあとすんなりと胸に落ちる。しかし何を理解できたかを全て言語化することは難しい。ゴダール映画の断片を寄せ集め、コラージュのようにしてこの映画を作り上げる。そして観客は沢山の要素を多面的に受け取る。しかし説話的な部分を全く排除しているわけではない。そのバランスによって言語化することは難しいが、感覚的にはしっくりくるという状態になる。行動分析学を文章ではなく映像的に表現し、かなり自然主義的な内容になっている。
 演出は反自然主義だ。しかし観客の安易な感情移入を促す自然主義に抗う視覚的実験と作劇的実験が、自然主義的な叙述を極端に妨げることなく、そこに組み込まれている。これもまた魅力だ。
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