ひでやん

恋人のいる時間のひでやんのレビュー・感想・評価

恋人のいる時間(1964年製作の映画)
4.0
夫の目を盗んで浮気する人妻をゴダールが独特の映像で描く。

アパルトマンで恋人のロベールと情事を重ねる人妻のシャルロット。ロベールは夫と離婚して自分と同棲しようと言う。

パイロットの夫は妻を疑い私立探偵をつけているようで、アパルトマンを出たシャルロットは周囲を警戒し、タクシーを乗り継ぎ飛行場へ夫を迎えに行く。

恋人といる時間、そして夫といる時間をゴダールは斬新な映像で映し出す。

膝、太股、肩、二の腕、瞳、重ね合う手や優しく肌を撫でる手など、引きの画で全身を映さず、身体のパーツをアップで捉える。

しなやかな裸身はヌードというより彫刻やオブジェのようだ。髪に軽く触れるようなキスと片方の瞳、その構図が美しい。

パリが泣くと雨が降る
彼の涙は好まれるのか

その囁きと映像がたまらなく好きだ。

「僕にとっては記憶がとても重要だ」
「記憶なんて要らない。私は現在が好き」

インタビューに答えるようにカメラに向けたその言葉は、「男はフォルダ保存、女は上書き保存」という説と重なる。

切り取った雑誌や看板の文字、イラストやネガ映像など、ゴダールの鋭いセンスが各ショットに収められている。

EVE(イヴ)の文字をアップで映し、カメラを引くとREVE(夢)となり、DANGER(危険)の文字をクローズアップしてANGEの文字を残し天使にするゴダール。巧みに操る映像と文字が洒落ている。

「右折するワーゲン」が可愛く、印象的だった。

快楽の果てに妊娠があるのか、愛の結晶なのか、深刻な女性問題に対して男はどこか楽観的だ。恋人に打ち明けたシャルロットの心がどこにも着地しないまま物語は幕を閉じる…。
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