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SISU/シス 不死身の男のMASHのレビュー・感想・評価

SISU/シス 不死身の男(2022年製作の映画)
3.5
一人のおじさんが多人数相手に無双する映画は、ジャンル名がないのが不思議なほどメジャーである。僕はさほどこの手の映画に入れ込むタイプではないが、『SISU』のアプローチの仕方には惹かれる部分があった。シンプルながらも、割と尖った作品。

話はシンプル。1944年のフィンランド北部。ナチスにより焦土と化した土地で金塊を掘り当てた男。だが、金塊を運ぶ最中にナチスの残党と鉢合わせてしまう。金塊を奪おうとする相手に、男の怒りはMAXに。あとはただただ最強の主人公による殺戮が始まるのだ。

あらすじから「あぁ、こういう映画ね」と分かる内容だが、先ほども書いた通りアプローチの仕方がいわゆるハリウッド的ではない。まず主人公はナチスに家族を殺された過去があるも、今作での彼の目的は金塊を奪われないこと。もちろん怒りの裏には家族を奪われた復讐があるが、物語の中心となるのはあくまで金塊。

また会話もほとんどなく、背景も焼け野原と泥道というだけあって、かなり渋めの演出が多い。また全体的なカラーも灰色を基調としたリアル寄りの戦争映画のよう。それがとんでもアクションシーンとのギャップを生み、観客を飽きさせない。

短い映画にも関わらずわざわざ章に分ける、バイオレンスさと静けさの極端なバランス、泥まみれの土地で金塊を巡る殺し合い。これはマカロニウエスタンを思わせる。ハリウッドで流行っているものを、小規模ながら尖ったアプローチで違うものを生み出す。『SISU』もその流れを汲んでいるのではないだろうか。

また、サブプロットとして女性たち自身の手による解放というテーマがあるように、現代的な要素もしっかり入れ込んでいるのも好感触。ある意味メインプロット以上のカタルシスを得られるだろう。(ほぼ『マッドマックス 怒りのデスロード』だが)

ただ、前半は渋めの作風かつ強烈なバイオレンス描写は、極端ながらも生々しさを感じ楽しめたのだが、ラストの飛行機でもとんでも展開には興が醒めてしまった。ここまで来るとおふざけ感が強くなり、それこそハリウッドの二番煎じになっている。

個人的にはもっと生々しいリアルさが強めでも良かったように思えるが、このアンバランスさがこの映画の良さでもあるのかも。ちょっと趣向を変えたアクション映画が観たいときにはオススメ。
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