Masato

ブルーザーのMasatoのレビュー・感想・評価

ブルーザー(2022年製作の映画)
3.7
BRUISER

批評家から絶賛されていたので鑑賞。14歳の少年が義父との関係がこじれるなかで出会ったことのなかったやんちゃな実父と偶然出会うドラマ。乱暴者というタイトルの通り、暴力性を内在する有害な男性性が静謐かつ恐ろしく描かれている。

ベースは「Tender Bar」などのオジさんモノ。思春期で過渡期にある少年の荒んだ心を癒やしてくれる実父の存在が、他作品で言う叔父さん感や近所のお兄さん的存在。家族以外の人間が成長の糧となる…はずだったがそれとは逆方向へと向き始める。

友人だった義父と実父の過去の因縁がそれぞれに眠っていた暴力性を掘り起こしていく。誰にも負けないように物理的に強くなりたいと感じている息子ダリアスが父親同士のあまりにも醜くて恐ろしい暴力を見せつけられることで、強くなるということの恐怖感や強くなったところで結局は有益な結果にならず暴力という悪に帰結してしまうこの皮肉的な有様を突きつけられる。

常に暴力的になればなるほど事態が悪くなる展開にしていて、人を暴力で説き伏せるという行為や暴力そのものへの強烈なアンチテーゼが見事に描かれていた。それと同時に、その恐怖感を煽る演出や劇伴が素晴らしい。どうしようもない怒りの感情のそれと似通った、自制心を無くし止められなくなってくる自身の感覚と、逆にそれを見せつけられたときのヒリヒリとしたあの感覚が見事に表現されていて、もはやスリラー映画かと見紛うくらいに怖い場面もある。中盤のマルコムが鼻血出すところのクロスカッティングは唸った。

いたるところにマッチョな要素が散らばっていて、例えば義父は筋トレしているところから始まるし、実父は筋肉を見せびらかすような立ち振る舞い。そうした露骨でしつこい筋肉の描写が数少ない暴力シーンの恐ろしさを際立たせている。

Huluオリジナルだけど、乾いた質感にスタンダードサイズの映像、濃淡のコントラストが効いた芸術性の高いショットの映像美の数々がA24作品みたいで好き。とりわけムーンライトやWAVESを思い出す。トレヴァンテ・ローズ出てるし。ドラマ映画としての格式高さを損なわずに暴力というバイオレンスを恐ろしく描いていて見事。初監督とは思えないし、スリラー系も撮って欲しい演出力の高さ。
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