みりお

未来は裏切りの彼方にのみりおのレビュー・感想・評価

未来は裏切りの彼方に(2019年製作の映画)
3.5
舞台劇『EPIC』をベースに、北アイルランドの脚本家ユエン・グラスが脚本を手掛け、長編デビュー作となるスロバキア人のペテル・マガート監督が映画化した作品。
だからだと思うけど、時代背景の説明は一切なくて、結構「わかるでしょ」って感じでストーリーを展開させてくる。
ただ現代日本に生きてたら、ナチス・ドイツに対するスロバキア民衆蜂起なんて正直よく知らないわけで、前半はそれぞれの人の立場や、民衆は何に対して蜂起しようとしているのかが、いまいち分かりづらい。

ただ立場がわかってくると、本当に興味深い愛憎劇。(いや、憎憎劇かな?)
戦争という極限状態の影響も多分にあるだろうけど、どんな環境下でも生き残ろうとする人間の本性は本当に醜い。
簡単に裏切り合い、守りたいものの優先順位が変われば、時には心から愛したパートナーさえ裏切れる。

そんな人間関係は観ていて気持ちの良いものではなく、特に私はジャックの弱さにはとことんイラついてしまった。
でもジャックみたいに、辛いことから逃げたり、自分に自信を持てないからこそ疑心暗鬼になったりする人は、現代にもたくさんいる。
現代では、休職や転職など、そういう人たちが心を癒す時間もお金もきちんとあるけれど、この時代はそれすら許されなかった。
どれほど追い込まれようと、戦時下で生きていくには前に進み続けるしかなかった。
ほんの少しのかけ違いや休息が命取りになる極限状態の中、人間が本性を曝け出して命にしがみつくのは仕方のないことかな…
そう考えると、改めて戦争というものの罪深さを突きつけられたような気がしました。


【ストーリー】

第2次世界大戦末期、スロバキアの歩兵部隊が娼館でひと時の休息を楽しむ中、若い兵士・ジャック(ラクラン・ニーボア)が軍を脱走する。
妻・エヴァ(アリシア・アグネソン)の元へ逃げたジャックは、妻が働く軍需工場で、脱走兵であることを隠して働き始める。
一方、工場の経営者・バール(ブライアン・カスペ)は戦後の経営に危機感を抱く中、政府の役人から注文の確約と引き換えに彼の愛人との結婚を要求される。
やがて彼と結婚するため村にやって来た女は、ジャックが逃げた娼館にいた女・キャット(クララ・ムッチ)だった。
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