ハル

星くずの片隅でのハルのレビュー・感想・評価

星くずの片隅で(2022年製作の映画)
4.1
これは香港の映画だ。
それなのに馴染む雰囲気。
錯覚してしまうほど親しみある絵の質感や描写の数々、感情で繋がりゆく姿に親近感を抱き、温もりの物語が始まる。

香港の片隅で一人、清掃会社を営むザク。コロナ禍の影響で経営不振は深刻な状態。
そこへ下の階に引っ越してきたシングルマザーのキャンディが仕事を求めやってくる流れ。

『知らない俳優に知らない監督』
しかし、一気に惹き込まれる。
その最大の要因は登場人物が魅力的だから。
まず、ザクがナイス・ガイ。
お母さんの介護をしながら毎日汗だくで働き、人の気持ちを慮れる優しき男。
自分だって精神的にはギリギリなのに常にキャンディやジューのことを考えている。
また、キャンディを演じる女優がとてもチャーミング。
吉岡里帆と本田翼を混ぜ合わせたような愛らしいルックス(西内まりやが近いかな)に勝ち気な性格。
娘のジューも小生意気で愛嬌たっぷりなんだ。

キャンディが教わった仕事を覚え、少しずつ慣れてきた頃に事件が起きる。
キャンディの手癖…
彼女は困窮の影響からか、すぐに物を盗んでしまう。
そのせいで会社の信頼が大きく損なわれ、一度はクビにするが…キャンディの根っこの部分を嫌いになれないザクはまた一緒にやっていく。
まぁ、それでもまた紆余曲折あって…

この作品はゆったり目の前で流れる“日常”を感じ取るタイプの作品。
「正解は一つじゃないよ」、柔らかなフィーリングが心に語りかけてきた。

加えて、学びになった部分も。
“移民”という言葉が当たり前に使われていて、日本とは異なる世界を感じたりもする。
違う国籍を取得して余生は異国で暮らす。香港の成り立ち、文化の中では当たり前に根付いていることなのだろう。
英語名を持っているとカナダやアメリカに行く人が多いのかな?(ザクの親友はカナダへいくみたいでした)

ザクとキャンディは兄妹のような間柄に見え、年齢差は一回り。
恋愛に発展しそうで、ならない不思議な距離感。
男女間の心地の良い信頼できる関係性は素敵だね。
ただ、キャンディがその気になったらすぐに恋愛に変わると思う(笑)

異国の困窮とコロナ禍真っ只中だった昨今の現状を描き、特別な出来事が起きるわけでもなく、終わる瞬間も普遍的な毎日を切り取ったもの。
淡々としたプロットに導かれ、勢いで鑑賞したけど、大正解だった。
落ち着く時間、余韻に浸れる作品は良き。
ハル

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