イージーライター

碁盤斬りのイージーライターのレビュー・感想・評価

碁盤斬り(2024年製作の映画)
4.5
チャンバラという名のアクション映画は制約が多い。アクションとはこれスピードのことだが、時代劇ではせいぜい剣戟と乗馬ぐらいしかそれを見せるものはない。ミッションインポシブルを考えれば、飛行機からの滑空、潜水、大爆発、カーレース、バイクレース、などなどオプションが尽きぬことと比べて大違いだ。ではどのようにしてアクションを時代劇の中で魅せるのか、これはある程度答えはできていて、なにかといえば、ドラマの中で緩急をつけるということである。緩があるから急の部分が相対的に余計に速くなる、アクションが活きるというものである。黒澤明の用心棒も椿三十郎もともに傑作のほまれ高いが、映画的に評価が高いのは椿のほうであり、あれは世俗に疎い家老一家ののほほんとした言動が、結果、三船敏郎の刀筋を際立ててるわけである。このことからも緩急の効果は証明されているというものである。

「碁盤斬り」はまさにその緩急の妙を絶妙なぐらいに取り入れ、チャンバラを際立たせた作品である。

チャンバラに至る緩の部分がユニークで、碁なのである。碁というものを私自身、打ったことはないが、いくら争い事と言いながらも呑気なものには違いない。いい大人が向き合って碁を打ち、パチンパチン。平和なものなのではないか。  

その平和な光景を積みながら、チャンバラに流れる。チャンバラをするのは、主人公格之進、草彅剛が演じる。敵役は斎藤工。草薙の角張った顔は思えば時代劇映えの顔である。斎藤工は映画バカらしくまた揚々と演じている。

なお私は打ったことがないだけでなく、将棋で言うところの王将を取ればゲーム終了に相当する囲碁のルールさえ知らない。それでも映画の途中に何度も出てくる囲碁の果たし合いが面白く感じるのは脚本がうまいのだろう。見ている側が碁を識らなくても知っているようにさせる。

また囲碁からチャンバラの流れを縦糸とすれば、いま主演作の「青春18✕2」が上映されている清原果耶と小泉今日子の間との交流が横糸となっている。縦糸、横糸、ドラマを複数層にすることは作る側に腕に覚えがないと話が散漫になるだけだが、この映画はそれぞれの糸ががっつり絡んでいる。そして互いに影響している。うまいのである。

此程、うまい作劇の時代劇はめったにない。いま同時期に本格的時代劇がもう一本、上映されているが、上手なだけである。技工としてすぐ出るだけである。もちろんそれはそれで日本映画の伝統を受け継ぐ素晴らしいものだか、それで終わってしまっている。

本作は技工という点でも申し分ないし(絵の作り方に東映撮影所の遺伝子を見ることができる)、そして作劇としての妙、剣戟の部分のスピード感、それらがアンサンブルとして織りなす結果として、間違いなく傑作の部類になるものだ。わたし的には、椿三十郎、たそがれ清兵衛、それらの系譜とそれらのレベルにおいていいと思わせる作品である。