keith中村

碁盤斬りのkeith中村のレビュー・感想・評価

碁盤斬り(2024年製作の映画)
5.0
 予告は何度か見たけど、これが「柳田格之進」の映画化だとはまったく気づいてませんでした。
 というか、予告を見た印象では、「面白いのかな? 微妙かなぁ。でも白石監督作品だし、とりあえず絶対劇場で観よっと」くらいな感じでした。
 
 シートに座ってから、不意に「あれ? 碁盤を斬る落語あったよなあ」などと思い出していると冒頭で「柳田様」のセリフ。おお、「柳田格之進」の映画化だったのか、とそこでようやく気付いた次第。
 帰ってきて予告を見返すと、「落語からの膨らませ部分」の敵討ちのカットばかりだったので、「そりゃ、気づかんかったわ」ってなりました。でも、今見たら予告でも「柳田様!」ってましたね。
 
 というか、さらに正確に言うと、脚本家の加藤正人さんによる小説「碁盤斬り 柳田格之進異聞」の映画化ってことなんですね。原作を読んでないので映画だけの感想としては、「異聞」って割には原作落語にかなり忠実。
 敵討ちパートは、まあまあ「よくある設定」だし、吉原のくだりは、プラス「文七元結」で、源兵衛さんのキャラが序盤は「帯久」入ってるなあ、という感じかな。あ、あと「井戸の茶碗」を強引にぶっこんでたな。
 
 番頭さんキャラを音尾琢真と中川大志の二人に分割させ、中川くん演じる弥吉を長屋に通わせた時点で、キョンキョンの「そん時ゃ、私は鬼になりますよ」のセリフより遥か手間で「『文七』入れたんだなあ」と悟ることができた。
 だから、原作落語の「まあまあ後味の悪い感じ」を「『文七』の畳みかけるハッピーエンディング」に持っていこうとしてるんだろうな、と予想もついた。
 "And they lived happily ever after."は、もはやディズニーだって描かない古典的な終わり方だけど、そこは文句言うまい。
 まあ、全然接点のない文七とお久を強引に結婚させる「文七」と違って、本作はちゃんと「ふり」としての二人の交流があるしね。
 
 ……っていうか、何か批判ばっかりみたいなレビューになっちゃってるな、今回。
 いやいや、面白かったんですよ。
 
 なんていうかな、演者さんたちが全員素晴らしい。
 わたし、草彅くんって俳優さんとしては、そこそこ苦手なんですけど、本作の格之進は素晴らしかった。隼さんも果耶ちゃんも瑛太くんも工くんもキョン2も市村さんも、ほんとに見てて楽しかった。
 なんというか、「柳田格之進」の映像化として、かなり理想に近かった。ストーリーは知ってるんだけど、それが「確認作業」にならず、「そう来るのね」と感嘆し続けました。
 
 「異聞」ってほどでもないけど、最後で格之進が清濁併吞できる人間に成長してるのも好ましかったし、途中で足抜けしようとした遊女に容赦ない制裁を加える「吉原の暗部」もびっくりした。落語だと遊郭は「明なら明」「暗なら暗」とどっちかに偏った描写しかないからね。
(だいたいは「明なら明」かな。暗部を描いた落語って「お直し」くらいか?)
 
 ちなみに私は「柳田格之進」なら断然志ん朝。
 もっとも私が東京に出てきて寄席通いを始めたのは、志ん朝師匠が亡くなって10年も後だったので、残念ながら高座は見てないけど、音源は少なくとも100回は聴いたな。
 
 一般的には、碁のくだりが分かりにくいのかなあ。私は碁が打てるので(人類最弱レベルだけれど)、「石の下」のところはアガりましたよ。草彅くんが序盤でキョンキョンに言う、「もっとも実戦ではなかなかこの形になりませんが」的な台詞の「フリ」があってからの、工くんとの実戦で「石の下」になるのね。
 私の父は碁はアマ六段だった。だから私は小学校低学年から囲碁の英才教育を仕込まれた。そして、数か月後、父は私に囲碁を叩き込むことを諦めたのであった……。私ゃ、そういう人間。
 私が囲碁を厭になった理由が、「おっ! 行けるじゃん!」ってなった後、がっつり親父に石を持ってかれた「石の下」なんですよね。上手な人ならそういう局面には決してならない。本作はそれが「VS斎藤工戦」にあったのも面白かった。
 
 本作のディテールで気になったのは碁石かな。
 いい石は那智黒と蛤なんですよ。どっちも肉厚で、「パチン」と打つとしばらくはグラグラ揺れるくらい接地面積が少ない。
 碁会所とか格之進が長屋に置いてる石なら、それでいいですよ。
 でも源兵衛さんのお店で打つときでも、平べったいコインみたな石を使ってるんですよ。
 うちの親父が係長に昇進したときに(母に内緒で「自分へのご褒美」として)記念に買った石だって、当時で白黒あわせて3万円くらいの(我が家としては相当高価な)どら焼き型の肉厚な石だった。
 源兵衛さん、碁盤は相当高そうだった。←草彅くんに本作最大のネタバレの「碁盤斬り」されてたけどね。
 だったら、石だってもっと高いの使いなよ!