なべ

ヴァチカンのエクソシストのなべのレビュー・感想・評価

ヴァチカンのエクソシスト(2023年製作の映画)
2.8
 ヴァチカンのエクソシスト 、略してバチクソ。最近、怖い映画を観たくてうずうずしてるんだけど、なかなかいい怖味に出合えない。本作にもそんな期待はしてなかった(いやこっそり期待してたんだけど、ハードルを上げないようにしてた)。きっと少年ジャンプ的な、頭の悪いエンタメホラーなんでしょと思いながら観たよ。ちぇっ、アタリかよ。しかも予想を下回ってた。でもたぶんこんなもんなんだろうなあ。
 いや、別にコンスタンティンのような大傑作を期待していたわけじゃないよ。でも、せっかくラッセル・クロウが出てるんだからさ。もうちょっとなんとかならなかったかな。それって贅沢な望み?

(以下、ネタバレあるけど、それがわかったからっておもしろさには影響しない。なぜならネタを大事に扱ってないから)

 前半、あんなに家族のことをじっくり描いといて、途中からそんなのどうでもよくなるとか、なんかひどいなあ。
 フリードキンの「エクソシスト」を随分意識してたけど、あのいたいけな少女に取り憑き、人格を破壊し、家族を絶望させ、神父の信仰を揺るがしにくる悪魔の怖さは微塵もない。アスモデウス、全然大したことねーな。てかさ、アスモデウスって色欲の悪魔だよね。そんな描写あったか? トーマス神父を色香で誑かしたのがアスモデウスってんなら納得できるけど。そもそも異端審問官に取り憑くならベリアルとかダエーワの方がよくない? メフィストフェレスみたいな有名どころでもいいよ。知らんけど。
 いずれにせよ、知らない外国語を話したり、初対面の人の過去を暴いたり、腹に文字を浮かべたり、首を捻ったりしても全然怖くない。ぼくらはもう、そんなカタチだけの真似では恐怖は生まれないことを知ってるんだよ。それは邪悪ではない。いくら事実に基づいててもね。
 てか、あの脚本でスペインの宗教裁判や異端審問の邪悪さが伝わるか? あの解釈に戦慄できるのか?
 てか、そっちを描きたかったのなら、前半の家族の話をあんなにじっくり描く必要ないよね。コンスタンティンの序盤の悪魔祓いシーンくらいで充分。
 古い教会の調査から、封印解除、カタコンベの発見、異端審問官たちの亡骸と、これだけ揃ってれば充分ミステリーとして機能するはずなのに、ただの段取りとして扱われて、全然うまく活用できてない。おもしろい話なのにおもしろく描こうとしてない。忌まわしい話なのに全然忌まわしさが感じられない。
 知らない人は調べるといい。スペインの異端審問が(「スペインの宗教裁判」で検索するとモンティ・パイソンのコントがヒットしちゃうから注意ね)どれほど罪深いものか。はじめこそ政争のために異端審問は利用されてたんだけど、やがてユダヤ教徒から財産を奪う方便として使われるようになったのね。
 つまり、拷問によって自白を強要した審問官たちは実は悪魔憑きだったと。さらにそれを知ったヴァチカンは奴らをまとめて地下に幽閉して、文字通り臭いものに蓋をしたっていうえげつない話なわけ。でも全然忌まわしい仕上がりになってなかったよね。
 教皇直属の聖職者の本にそう書かれているってところがさらに凄みを増すはずなんだけど、なんか軽い。…そんな悪魔のお話でした、てへっみたいな。そういうことじゃないでしょ!天地を揺るがすくらいショッキングな話なのにこんなおかずみたいな扱いでいいのか? もっと忌まわしく、もっと恐ろしく、悪魔も怖いけど、人間も同じくらい怖いって描けるネタを、こんな風に扱っていいんだろうか。
 もしこのネタをアモルト神父ではなく、コンスタンティンが暴いていたら…ヴァチカンは全部悪魔のせいにしてしてるけど、悪魔からしたら、「へ?お前ら好きで拷問してたんじゃん。急に俺たちのせいにされても困るってば。人間恐いよ!」と悪魔もドン引きしたって話にしそう。そんな話なら大歓迎。ここにきて、今さらながらコンスタンティンのすごさを思い知ったわ。

 今年はエクソシスト 50周年なのに、こんな雑なエクソシストをぶつけてくるとは。でも今どきの映画ファンにはこのラフなノリの方がおもしろいのか。細かいことはどうでもよく、罪と罰みたいな説教など聞きたくなくて、アモルト&トーマスペアがただ元気に悪魔を祓いまくれればそれでいいってか? アホか。
 エクソシスト Believerに期待する!(予告編はすごくいいぞ)
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