幽斎

ヴァチカンのエクソシストの幽斎のレビュー・感想・評価

ヴァチカンのエクソシスト(2023年製作の映画)
4.2
レビュー済Sylvester Stallone主演「サマリタン」Julius Avery監督、オスカー俳優でレビュー済「アオラレ」Russell Crowe主演の本格オカルト・ホラー。ヴァチカン公式エクソシストとして活躍したGabriele Amorthの自伝を基に描く。Tジョイ京都で鑑賞。

Amorth神父はカトリックの総本山ヴァチカンでローマ教皇に仕えたチーフ・エクソシスト。彼の回顧録は宗教の枠を超え世界的なベストセラー「An Exorcist Tells His Story」本作の原案だが、残念ながらエンデルレ書店「エクソシストは語る」絶版。代わりに文藝春秋「バチカン・エクソシスト」分かり易いので気軽に手に取って欲しい。約2000年を超えるカトリックの歴史で、どの様に悪魔に魅入られた人々を救済したか?。謎めいた儀式をスリリングに暴き出す「現在進行形の悪魔祓い」その闇と真実を照らす物語。

主導したのはプロデューサーMichael Patrick Kaczmarek。神父の「エクソシストは語る」に魅了され、総本山ヴァチカンと交渉。2016年に亡くなった神父の活躍を「エクソシスト界のジェームズ・ボンド」と絶賛。007が女王陛下のスパイなら、神父は教皇のエクソシスト?。レジェンド神父には多くの候補が居たが「実在したエクソシストを演じる?そりゃあ魅力的だな」電話に出たアオラレ神父Croweは即決。私の記憶が確かなら、彼がホラー映画に出るのは初めてだろう。

私はEXクリスチャンですがエクソシストも以前は「守門」とか「祓魔師」と呼ばれ、悪魔憑きは映画の影響で「悪魔祓い」がクリスチャン以外にも認知され、教会に依頼が殺到。私は名作「エクソシスト」こそ布教活動の一環と信じて疑わないが、現在のカトリック教会では、洗礼式に悪霊を拒否する誓約も有る。他派プロテスタントも「Exousia」エクスシーア、悪霊追い出しは存在。神道にも徐霊は有る、皆さん良くご存じ「お祓い」。

エクソシズムを複数で行う事は邪道と教えられたが、観客に悪魔祓いを分かり易く説明する為には相棒が居る。イケメン神父Daniel Zovattoは架空の設定だが、彼は愛した恋人と結婚するより神に仕える道を選ぶ。因みにカトリックは神父、プロテスタントは牧師で、2024年の現在でもカトリック教会では神父、正しくは司祭の結婚を認めない。因みにプロテスタントは結婚を容認。処女を神聖化する宗教がセックスをタブー視する自己矛盾。但し教会と言う組織の聖職者の伝統で、教理では無いのでセックスは禁じられてない。

アオラレ神父とイケメン神父のバディ、純粋さの残るイケメン神父はエクソシストの基本で有るラテン語で祈りを唱える事も覚束ない、観客から見ても発展途上のキャラクター。初心者の神父と観客をシンクロさせる事で、カトリック以外の方にも分かり易く見せる、目線の低さが秀逸。彼が成長し悪魔と対峙し真っ向勝負を挑むのは、新米デカの成長物語にも通じる、ハリウッドらしい鉄板プロット。3時間を超えるメイクに耐えた少年役Peter DeSouza-Feighoney、渾身の演技を披露した期待の新人も特筆に値する。

ハリウッドで宗教的な立ち位置がニュートラルなソニー・ピクチャーズ。「エクソシスト」はワーナー、「オーメン」は今は亡き20世紀フォックス。本格的な宗教映画をミステリーとして捉えた名作が、Sean Connery主演「薔薇の名前」。ソニーはベストセラー小説の映画化「ダ・ヴィンチ・コード」エンタメを巧みに織り込む、宗教とミステリーが融合した映画が得意。ヴァチカン公式の本作は、「エクソシスト」+「死霊館」+「インディ・ジョーンズ」スタジオを超えて(笑)、ソニーらしくスマートな解釈で描いてる。

劇場で観ながら「大体に切り込んだな」思ったのは、異端審問のシーン。異教徒の背景に悪魔が居たと言う解釈は、歴史的な背景やカトリックの成り立ちを考えると、信仰の根幹に関わる危険な解釈にも受け取れる。「善」と「悪」を単純に切り分けるレトリックで、監督は「サマリタン」も「オーヴァーロード」も異端に関する問題に大胆な解釈を加えた。オーヴァーロードもナチスVS.ゾンビと言う切り口で、エクソシズムもエンタメと割り切って描いた。ソレが現役の宗教家にはノイズに映る点にも加筆したい。

変遷はアオラレ神父の台詞にも、ヴァチカンから「大天使聖ミカエルは何故ルシファーにトドメを刺さない?」問い詰められると彼は「神はどのような行為も赦されるので、ルシファーも神はお赦しに成る」平然と論破する。旧来のカトリックの考えとは相反する危険な教義と言えるが、罪の告白をすれば、赦しが施されると長い歴史を誇る聖典をシンプルに解釈。分り難いので平たく言えば時代と共に悪魔も変化する、と言う風にお考え頂ければ幸い。悪魔が封印された場所は、まだ199ヵ所も有る。アオラレ神父とイケメン神父の最後の聖戦は、まだプロローグに過ぎない。

「主の名を呼ぶ者はみな救われる」救われる希望は唯一、イエスを救い主と認める事。

【警告!】エクソシストの真実を知りたい者だけお進み下さい。当方では一切責任を負いかねます【閲覧注意!】

本編の台詞で「悪魔憑きの大抵は精神疾患で説明が着く、しかし科学では説明出来ないモノも2%存在する」とRussell Croweは嘯く。貴方は、この台詞を100%信じるだろうか?。私は京都の教会で洗礼、バプテスマも受けた。その私から言えば冒頭の台詞には嘘偽りは無いが、注意深く見て欲しいのは「悪魔が存在する」とは一言も言って無い。本当のエクソシストに興味の有る方はヴァチカンに密着したドキュメンタリー映画「悪魔祓い、聖なる儀式」参考に為ると思う。

悪魔憑きを日本では狐憑きと言う。多くは突如の痙攣に幻覚や幻聴。現代の病理学では「抗NMDA受容体脳炎」。感染症で神経の流れを受け取る受容体に抗体が発生、つまり病気。精神疾患なら他人に共感して貰う事は難しい。其処で登場するのがエクソシスト、日本なら神主。心が安寧を感じ症状も和らぐ。それは医師ではなく聖職者の務めで、宗教や信仰の力は侮れない。要は「暗示」パワースポットに行くと心が晴れるのと同じ原理。では、残りの2%は何か、それは「演技」。ヤラセと否定するのは容易い、だが救われる人が居る事も、また真実なのです。

私は悪魔は居ると信じるが、悪魔憑きは「ない」夢を壊して申し訳ない(笑)。
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