Jun潤

逃げきれた夢のJun潤のレビュー・感想・評価

逃げきれた夢(2023年製作の映画)
3.8
2023.06.12

予告を見て気になった作品。
光石研さんは、『カイジ 人生逆転ゲーム』での演技が未だに印象に残っていて、一番好きなバイプレイヤーさんの一人です。
重鎮役から、今作で見せてくれそうな情けない親父まで、全おっさんの目標でもあり憧れでもあり、反面教師でもあり未来の姿でもある、そんな類稀なるおっさん俳優の主演作、見逃すわけにいかない。

定時制高校で教頭として務める末永。
定年を間近に控え、娘に積極的に話しかけられたら気持ち悪がられ、妻とスキンシップを取ろうとしても拒否され、高校の生徒からはうまくあしらわれ、話し相手は幼馴染だけ。
病気のために物忘れが激しくなり、何かを悟った末永は、周囲の人との関わり方を少しずつ変えてみるが……。

日常モノがおっさん界隈にまで進出してきましたね。
予告の感じから末永の人生に何か大きな転機が訪れて物語が動き出すのかと思いきや、末永という普通のおじさんの日々を切り取った淡々とした作品。
光石研の演技もあって娘や妻から邪険に扱われる悲哀あるおっさんの姿がよく描かれていましたし、松重豊が演じる友人の存在でもって、歳をとってもふざけ合える人がいることの素敵さも描かれていました。

今作の末永という人物は、令和の理想的な男性像を描いていたのかなと思います。
昭和感のある亭主関白でもなく、平成代表のような低姿勢な感じでもなく、教職だからということもあるかもしれませんが、程よい距離感を保ち、生き方の多様性や性的役割分担にも寛容で、しかし自分という個人の主張も忘れない。
女性の社会進出やらポリコレ配慮やらで蔑ろにされがちな男性の存在をきちんと描いている良い作品でした。

タイトルの『逃げきれた夢』について、何を指しているのか考えを巡らせながら鑑賞できる余白のある作品でもありました。
個人的な解釈としては、末永の人生こそが逃げた先で見ていた夢そのものだったのではないかと思います。
家族に話しかけては気味悪がられるところを見れば今まで家庭を顧みてこなかった、言い換えれば逃げてきたことも窺い知れます。
また、仕事を辞めてまでやりたいことが何かあるのかと問われて何も答えられなかった様からは、40年近く働いてきたこともまた、人生においては考えることや行動すること、選択することから逃げていることなのかもしれないなと感じました。
末永の場合は教職の経験から若者の悩みを親身になって聞くことができるという強みもあって、ダメなことだと明言されていなかったこともまた今作の良い点だったと思います。
Jun潤

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