近本光司

逃げきれた夢の近本光司のレビュー・感想・評価

逃げきれた夢(2023年製作の映画)
4.5
たった一度きりの人生が、いつのまにか自分の手許から過ぎ去ってしまっていた。もう取り返しがつかないところまで来てしまった。直視するにはあまりにおそろしい事実にはたと気づいてもがく還暦間近の男の悲哀。孤独。絶望。
 すばらしい。光石研、すばらしい。いままで観た光石研でいちばんいいかもしれないというと、監督はたいそう喜んで、これまでの光石研の映画を全部捲ってやろうと思ってつくったと語った。松重豊、すばらしい。吉本実憂、すばらしい! 最後の喫茶店での切り返しのかけ合いがたまらない。ギリシャのパロス島。普段はだれにも言わない本当がぽろりと溢れ出ること。ひとを信じるということ。あの二人は、この先あのような時間を再び共有することは二度とないだろう。だからこそあの記憶に、今後ずっと救われつづけるにちがいない。ああいう人間たちを撮ってくれたことに感謝しかない。すばらしい。