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レオノールの脳内ヒプナゴジア(半覚醒)のumisodachiのレビュー・感想・評価

4.5



フィリピン発のコメディ映画。

かつてアクション映画監督として名をはせたレオノールは成人した次男とふたりで暮らしている。ボーっとして電気代も払い忘れるレオナールと、不器用そうな次男はどうにも合わないらしく、すれ違ってばかりだ。ある日、レオノールは新聞で映画の脚本を募集していることを知り、過去に考えていたアイデアを発掘してきて再び脚本執筆にとりかかる。しかし、上階から落ちてきたテレビで頭を打ってしまい、半覚醒の寝たきり状態となってしまう……。

非常にユニークな作品。半覚醒状態に陥ったレオノールは自分が考案した映画の世界に入り込んでしまうのだが、そこに辿り着くまでにも夭逝した長男が半透明の状態で登場したり(レオノールも父親も弟も彼と普通に会話をする)、妊娠した男性がモブで出てきたりと、不可思議な要素が「ごく普通に」散りばめられているという世界観。エブエブとかなり印象が重なるゴチャゴチャ感で、その時点でかなり私好みだった。

大方の予想通り、話の中心はコミュニケーションがうまくいかない母親と次男との関係、またレオノールという女性の人生そのものへと集約していくわけだが、そこまでの持って生き方が巧妙。長男の死の真相が明かされるタイミングとそれを伏線とした展開は、かつて映画監督として成功した彼女の人生における葛藤を想像させる。

懐かしいアクション映画のシーンの作り方も楽しいのだが、レオノールに多くを語らせずに「わからせる」手法はエブエブとかなり異なる。アクション映画の世界に魅せられながらも、世界に対峙する方法や、母として人間としての自分自身に向き合おうとし続けてきたレオノールという人物そのものの奥行きがどんどん深まっていくのだ。めちゃくちゃなように見えて、相当気合を入れて時間をかけて練りこまないとこんな脚本はかけないと思う。

クリエイティブへの情熱、我が子への愛情、巻き戻せない人生の悔恨、頭ではわかっているのに踏み出せないもどかしさなど、人間が持つ複雑さと家族を中心とした人間関係のいかんともしがたさをイマジネーションの宇宙の中に放り込んだ傑作であり、それでいながら絶対的な解放と人間の尊厳を描き切っていると感じた。こんな風に真面目に語るのもバカバカしくなるようなコメディだと感じる人も多いと思うが、私にとっては一人の女性のすべてを表現した最高の映画だった。

画角や映像のタッチがころころと変わる映像も、何重にもなってやがて曖昧になるメタ構造もすべてが好み。また観たい。
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