アニマル泉

レオノールの脳内ヒプナゴジア(半覚醒)のアニマル泉のレビュー・感想・評価

4.2
フィリピンの31歳の女性監督マルティカ・ラミレス・エスコバルのデビュー作。8年がかりで製作したという。タイトルのヒプナゴジアとは半覚醒のこと。英語原題は Leonor Will Never Die
本作はメタ構造になっている。脚本家のレオノール(シェイラ・フランシスコ)が頭にテレビが落下して意識不明の重体になり、半覚醒状態で自ら劇中劇に入り込み、脚本を作りながら物語が進んでいく。例えば劇中人物が通りを走って来る、レオノールのタイプが止まり、劇中人物がこのあとはどうなる?と叫ぶ、すると劇中劇が繰り返しされ、再び劇中人物が走って来ると音楽が突然変調して踊り出すミュージカルになる、といった具合だ。あるいはカチンコが入ると時間が巻き戻ったりする。
本編は重傷のレオノールを心配する長男ロンワルド(ロッキー・サランビデス)次男ルディ(ボング・カブレラ)区長選挙に立候補した別れた父を巡って展開される。実は長男ロンワルは銃撃の撮影現場で事故死して、幽霊となっている。
フィリピン映画については疎いが、アクションや空手や銃撃場面はB級感が満載だ。目に釘を刺す、首を切る、首吊りにして足元のブロックを崩していくなどエグい。
後半はルディもテレビの中の劇中劇に入っていく。まるでクローネンバーグの「ヴィデオドローム」だ。劇中劇ではロンワルドが踊り子のイザベラ(レイ・モリーナ)を助けて悪徳市長(ディド・デ・ラ・パス)と対決する。しかしレオノールが流れ弾に当たってなんと死んでしまう。「これでは母は納得しない」脚本が変更される。劇中映画と本編が融合してしまうのだ。
さらにこの映画自体の櫓崩しがラストに起きる。今まで我々が見ていたのは、モニターで見ていた試写だったのである。監督と編集が会話する。「ラストどうする?」するとレオノールの目が覚めて、華やかなミュージカルで本作は終わる。
ここまでやるかという太々しさが今どき稀有だ。エスコバル監督の作風はロングやグループショットが多く素朴である。
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