ルサチマ

上飯田の話のルサチマのレビュー・感想・評価

上飯田の話(2021年製作の映画)
1.0
郊外にありながらも都会の雰囲気も残しつつ、出てくる人たちは皆んなちょっとした癖のある人たちみたいな、あまりに分かりやすい図式が出来上がっている。ここ5年くらいで都市や郊外の街並みを題材とした作品は相当増えたが、どれもただドメスティックに描くべき題材を縮小したものに思えてハッキリ言って作られてるものは最悪。
この監督が本当に上飯田に魅了されてるなら、そこに住む人間や地元の店にまつわる個人史を描くだけで留まれるはずがない。それぞれの個人史はそれはそれで重要な側面があるのは認めるが、ここで描かれるのはまさに外部の人間がフラッとやってきてちょっとした地元の人間との交流をもとに想像できる程度の物語でしかなく、どこにでもある日常をとりあえず肯定した結果、最近の張り詰めた緊張感に対する忘却を許してしまう。喧騒を離れた世界を提供し、問題はそのままに楽観的忘却を許すというのなら、それはただ目の前の現実から逃避しているだけであって、偽りの日常の肯定にしかなり得ない。
そしてこの監督が本当に映画に魅了されてるなら、上飯田の世界に誘い込んだ俳優を、地元の人々と同程度の自然体(正直な話、自然体にもなってはないのだが、自然体であるかのようには装わせている)で捉えるというだけで、映画が立ち上がると信じたりはしないはずだし、時折挿入されるPOVの移動撮影や、カメラの突然の(突然というほど不意打ちもできてないが…)360度パンによって被写体を異化できると安易に思ったりはしないはず。
いずれにせよ、この監督からは何かを本気で表現したいと感じられるほどの意志を感じ取ることはできないし、表現したいものを具体化するために、本気でロケーションや俳優、その他のあらゆる絶対的な他者としての現実に向き合って煮詰めようとしているとは思えない。薄っぺらいにも程がある。
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