故ラチェットスタンク

TALK TO ME/トーク・トゥ・ミーの故ラチェットスタンクのレビュー・感想・評価

3.9
『RackaRacka』

というYouTubeチャンネルをみなさんはご存知だろうか。名前を知らなくとも彼らの作ったスカムな動画郡なんかを知っている方はいるのではないだろうか。ドナルドが子どもを襲う恐怖動画や『スターウォーズ』と『ハリー・ポッター』に乱行パーティーを開かせる動画など、その筋の文化圏の人たちにはお馴染みのボンクラクリエイターたちである。多動症じみた脈絡のなさと倫理欠如も甚だしい露悪・無差別な差別描写が魅力的で突き抜けた不謹慎さにはむしろずっとやっていてほしいほどの多幸感があったりする。

つい数年前に映画を作っているとのご達しがあり、いつ公開なのだろうとファン待望の作品だったわけだが、それが今作だった。日本で大きく宣伝がかかる前から目をつけていてようやっと今年公開されることとなり、なんだか勝手に懐かしい気持ちに。蓋を開けて見てみるとだいぶ上述した諸々がオミットされていて、大人びた作りになっていてビックリしてしまった。

若者描写のうまさは相変わらずで、ミーが挙手したときに沈黙から激励に変わっていくくだりの間の取り方とか、結構YouTube時代の演出からモロ引っ張ってきてる感じがあって「お!」と思うものの、その他諸々はかなり真っ当。ホラーとして随分真っ当な導入から随分真っ当な舞台設置をするので「うわっ手堅いな」と思いながら観ていた。どうしても色々と期待してしまうので突き抜けなさはありつつ、95分の中で「境界が揺らいでいく」様を丁寧に見せていき末尾で円環構造をバシッとキメてくれたので「うわっ!手堅いな!」と思い、前半と後半でかなり印象は変わった。チャーミングさは多分に感じる。ミーの母親の幽霊の揺さぶり方も最高だし、辺獄の見せ方もあの朧げさがベスト!終盤の道路→病院→暗闇の空間移動も巧みだ。慣れついたいやらしい手つき。

弟周りの描写の生真面目さなど前では考えられないほど自重しているのでRackaRackaとしての突き抜けなさは感じるけど、寧ろ真っ当な怖さに昇華されていて素晴らしいと思う。荒々しいカメラワークと境界の揺らぐグルーヴには目を見張るものがある。良かった。

タイトルの仕掛けも面白い。悪霊視点からのトーク・トゥ・"ミー"の話になってる。