「映画体験らしい何か」が畳み掛ける、評に困る奇作。
劇場にて観覧。
まずよい点をあげていこう。犬とのディープキスや妖怪足舐めのショットは霊的体験と下品な性的描写が上手く絡み合って、降霊モノとしての系譜にリスペクトを感じてよい。(ちなみになにかのインタビューで犬とのキスシーンはCGなので動物虐待ではないと制作者が発言していた記憶がある。イマドキの配慮だ)
また憑依時黒目が大きくなる演出も、N番煎じではあるもののキャッチーでわかりやすい効果を発している。
そしてキャスティングだが、ミア役のソフィー・ワイルドが素晴らしい熱演を見せている。スクリーンデビューは本作とのことだが、とても今後の活躍が期待できる女優だ。
さて、以下にネガティブな点をあげていこう。
まずは昨今の洋画にある「画面暗すぎ問題」だ。これは本作に限った話ではないのだけれど、昨今の「ライトがないとこは暗くないとおかしくね?」的なリアリズム主義はさすがに閉口せざるをえない。正直何が起こってるのかわからないレベルのショットも多い。カラリストは皆さんどう思っているのだろうか。
そして最も問題に感じるのがこれだ。「映画を通したメッセージが見えない」こと。
A24作品といえばヘレディタリー/継承やミッドサマーなど、映画が語りかける大きなテーマが存在するものが多いように思う。
ここで言う"テーマ"は教訓や寓話性などではない。単純な作品の主題だ。そこが本作には希薄に思う。要するに非常に短いスパンでこわい場面(静と動)が叩き込まれるが、観終わった後には特に何も残らないという印象を受けるのだ。Zapping的と言えば伝わるだろうか。
つまり総じて映画一本としては「観ても観なくても良い」そのように思ってしまう。
ホラー映画はこわければいいんだよ。と言われればそれまでだけれど、「こわい映画」は「絵がこわい」という要素だけで成り立っているわけではないはずだ。
なんとも煮えきらない気持ちになる。というわけで、ミッドサマーがオススメです!!