アー君

TALK TO ME/トーク・トゥ・ミーのアー君のレビュー・感想・評価

3.5
今年初めての劇場鑑賞である。観終わった直後の感想としては、「エクソシスト」などの霊が人間に憑依するクラシカルなホラーに「シックスセンス」以降にみられるサスペンスと感傷的要素を並行して取り入れたZ世代が作るパロディのようであった。また中盤以降(ライリーの降霊シーン)の展開の動きには密度も高く、上映時間が95分であるにもかかわらず、良い意味でそれ以上の長さを感じた。また腕の剥製を霊媒のアイテムとして使用するという奇抜な独自性も見受けられた。

【↓以下はネタバレ↓】











降霊シーンをはじめとした特殊技術については、本作が初長編とは思えないほどのスキルがあり、若い頃からYouTubeでの動画配信をしたことで客観性を学んでいたことがうかがえる。

ティーンエイジャーが好奇心ゆえに起こすトラブルの描写は非常にリアリティがあった。例えばドラッグによるバッドトリップを降霊術の憑依状態に置き換えて示唆している点は興味深い。この遊びは昔の日本でいうところの〝失神ゲーム〟のノリだとは思うけど。

※ 興味本位に調べて絶対に真似をしないで下さい。

テンポ感がありながらも、なぜか構成による話の流れが散らかっており、両親の問題と親友であるジェイドの弟(ライリー)に取り憑かれた霊を追い出すストーリーが同時進行しているが、描写が分かりづらい場面が多かったため、少しではあるが残念であった。

ラストにむけての解釈は、彼女は霊との交信時間を超えたところで、素の状態でも母親の霊をみる症状が現れていたのであれば、その後に起きる死は憑依によるものであれば理屈には合う。(麻薬中毒者が禁断症状で起きる幻覚の暗喩。)また序盤のドライブ中に路上で息絶えた動物を伏線として、最後まで母親の誘導なのか、ミアが途中で危険を感じてライリーを庇(かば)ったのか、それともミアと彼氏との嫉妬や弟を助けるためのジェイドによる故意なのかを複数の要因を匂わせるところは敢えてネットで解釈を議論させる見せ方である。

しかしミアが死後の世界から生者と交信をするという亡霊側の視点に入る部分は必要のないオチであると感じた。霊と交信をするルールは観客に対して丁寧なほど分かりやすいが、逆に両親間の事実関係や老婆(亡霊たち)の存在が説明不足である。ミアの死因にも被るため矛盾もあるが、曖昧な物語の筋をより明確に描かれるべきであり、このようなエンディングを読めてしまったので、意外性を望んでいたので残念であった。

得体の知れない心霊からの恐怖や不条理な攻撃と、生きている人間の業から起きる愚かさとの違いの描き方にバランスが悪かった感じもある。

続編があるとすれば、ミアの妄想ではなく事実として父親が既に憑依していたように、ジェイドとその母親が何らか絡んではいるとは推測はしている。彼女の妄想である理由としては、基本ルールは憑依を続けていれば、最初の犠牲者である少年やライリーのような自害する症状が現れるためである。そうなると母親からの手紙は半ば霊に憑依された状態によるもので、虚偽ではない可能性もある。

YouTuber「RackaRacka」について。
彼らの動画は「ハリーポッター対スター・ウォーズ」「マーベル対DC」「ドナルド・マクドナルド」など、比較的に多くの視聴回数がある動画だけを観たが、炎上目的の悪ふざけがある一方で、アクションシーンのカット割りやテンポは字幕を必要としなくても分かりやすく10年前からプロレベルである。映画館畑のシネフィルというよりも、日本のマンガやDVDを初め、無尽蔵にあるサブスク配信から映画のテクニックを学んで吸収をしてきた世代であることがうかがえる。(「ストリートファイター」の映画版に打診されているらしい。)

A24ブランドによる話題性もあり、業界筋からも高評価ではあるが、特殊効果以外の評価は平均的な及第点である。今後の作品に向けて問題点を客観的に理解し、真剣に取り組んでいけば、次回作以降には今まで以上の優れた作品が生まれるだろう。これからのフィリッポウ兄弟の将来に期待したい。

パンフレットは200㎜角の正方形で、表紙カバーには手の形が切り抜かれた凝った仕様である。(本文の取り外しが可能で、蝋燭が見える処理がされている)。中面はマットで全体的にトーンが沈んだ紙を使用し、登場人物の相関図や憑依の手順をイラストを使ったデザインでとても分かりやすい見せ方にしている。

[イオンシネマ板橋 15:15~]
アー君

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