浦切三語

12日の殺人の浦切三語のレビュー・感想・評価

12日の殺人(2022年製作の映画)
3.5
だいたい警察サスペンス映画は主人公が事件の解決を通じて主人公個人の物語を解決に導くというのが王道だけど、この映画はちょっと違う。どうも実際の事件がモデルになっているらしい女子大生焼死事件の捜査担当になった新任の班長は相棒の老刑事と事件解決に奔走するが、一向に事件解決の糸口が見えてこない。このことは、事件の始まりから終わり付近まで執拗に登場する「黒猫=不吉の象徴」の存在によってだけでなく、主人公が取り調べに使う部屋に配置されている小物の写し方でもそのことを表現している。主人公の取り調べを受けている犯人をカメラが正面から捉える時、そこには外回りの時に使うコートや、大量にファイリングされた書類などが置いてある。これら警察にとっての武器とも呼べる小物を終盤まで配置することで、この映画の中で語られている事件の捜査は続いていく、事件は終わらないことを暗に示唆している。

そういうわけで、事件は解決しない。犯人が誰なのかは最後までわからない。それじゃあいかにして、この映画は主人公の物語を成立させて、それをどう解決に導くのか……というのがこの映画最大のキモだったりする。

「サスペンス」とは言っても、そこはフランス映画。余計なことは語らない。決して多くは語らない。説明台詞は極力少なく、だけれども描くべきところは段階を踏みながらキチンと描く。そこで私たちの目に写し出されるのは「男社会の中の女たち」である。警察が押収した被害女性スマホにかかってきた友人からの電話に出た主人公が「警察です」と口にしたとき、電話口の女友達はなんの疑いもなくそれを信じた。これをご都合主義ととらえるか、それとも「男性社会の"規則"に……これは同時に主人公の所属する警察組織が"男性的な規則"に縛られていることを冷ややかに描いているんだろうが……女たちが無条件且つ思考停止的に従っている」ことの暗喩であるのか、どちらを感じるかで見方が変わってくる、地味地味ながらもなかなか堅実なサスペンスだと思いますよ。
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