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12日の殺人の鶏のレビュー・感想・評価

12日の殺人(2022年製作の映画)
4.0
『観客をミスリードしかねない邦題』

「悪なき殺人」のドミニク・モル監督の最新作ということで観に行きました。前作に続いての「〇〇殺人」という邦題を見れば、誰しもミステリー映画だと想像するのが自然ですが、どちらかと言うと謎解きや犯人究明と言ったミステリー要素よりも、殺人事件を捜査する刑事たちの心情や人間関係に焦点が当てられた作品であり、トリックの解明や犯人逮捕でカタルシスを感じたいという期待を持っていると大いに裏切られることになります。

そういう意味では、先だって行われた米国アカデミー賞の賞レースでも注目を浴びた「落下の解剖学」路線の作品と言っていいかなと思います。というか、「落下の解剖学」の場合、夫の死因が自殺なのか、妻による殺人なのか解明されずに終わったため、モヤモヤ感が残ったとしても不思議ではない展開でしたが、それでも自殺か妻による殺人なのかの2択には絞られており、それを巡って鑑賞後にあれこれ推理する楽しみも残りました。また、”落下”したのが夫の身体であり、その原因究明という意味での”解剖”であったと同時に、一人息子の事故をきっかけに、10年近い歳月を掛けて”落下”して行った夫婦関係の”解剖”に焦点を当てた映画だったと理解すれば、結構腑に落ちる作品でした。

そうした観点で本作を観てみると、ミステリー的には「落下の解剖学」のさらに一歩先を行っていて、”自殺”か”他殺”かみたいな選択肢すら観客に与えないで終わる本作は、ある意味斬新というか、かなりシュールな内容となっていました。ただ前述の通り、殺人事件を捜査する刑事たちの心理とか人間関係なんかを描いた作品なんだと捉えると、結構面白い作品だったんじゃないかなと思えます。実際本作は、ポーリーヌ・ゲナによるノンフィクションに着想を得て創られたとのことで、冒頭でも殺人事件の20%ほどは迷宮入りすると言ってから物語が始まっており、その20%を経験した刑事や判事の体験を描いているという意味では、逆転の発想に満ちた実験的ミステリーだったと言えるのではないかと感じます。

ただ観客をガッカリさせ得る可能性があるとすれば、前述した題名であり、前作「悪なき殺人」に続いて「12日の殺人」と命名し、「殺人」シリーズとして売り出しているために、ミスリードされてしまった人も結構いたのではないかなとも思います。そもそもフランス語の原題「La nuit du 12」は、直訳すると「12日の夜」という意味であり、日本の配給が前作に引っ掛けて「12日の殺人」とした意図は理解できなくもないものの、ちょっと危険なネーミングだったように思わないでもありません。

個人的には、どんな事件もスパッと解決するという一般的なミステリーのテーゼを破って、ミステリー的には観客をほっぽり出してしまう作品がたまにあってもいいんじゃないかと思ったことや、主役のヨアンが”未解決事件の闇”に飲み込まれそうになったものの、優秀な部下の登場で光明を見出したことなどで、ヒューマンドラマ的には非常に良かったんじゃないかなという感想を持ちました。

そんな訳で本作の評価は★4とします。
鶏