雨空

12日の殺人の雨空のレビュー・感想・評価

12日の殺人(2022年製作の映画)
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深夜、友人宅から帰るクララは帰路途中にある公園で誰かに呼び止められる。顔が見えない誰か。その誰かはガソリンをかけ火を放つ。
生きたまま焼き殺された事件を担当するのは、新しく刑事課の班長になったヨアン率いるチーム。クララの身辺を地道に捜査していく。

映画の本編が始まる前に「この映画は未解決事件を扱ったもの」だという文章から始まる。最所から犯人は誰なのか、動機はなんだったのかは分からずに終わることが明示されているのにもかかわらず、場面が進めば進むほど犯人は誰なのか、お願いだから捕まってくれと焦燥感に似た気持ちでジリジリしていく。それはこの事件を担当することになった刑事たち、とくに班長のヨアンとその相棒のマルソーの二人の心の動きが時間が進むごとにゆっくりと疲弊していき、事件の解決の見えなさに閉塞感を覚えイライラとしていく過程を痛いほどに感じるから。
クララの親友や家族の癒えない悲しみ、そしてやるせなさ。クララの身辺を中心に捜査をしていくと、否応なしに被害者クララの印象もまた暴かれていく。事件は被害者も含め多くの人に様々な傷を残すものだということ。それは中盤での、ダイニングでユアンとクララの親友の会話からも痛いほど感じる。
そしてこのクララの事件にどんどんのめり込み取り憑かれていくユアンが、袋小路にはまり抜け出せない焦りも、トラックでひたすら自転車を漕いでぐるぐると回っている場面からも伝わってくる。
ひたすら地道な捜査。浮かび上がってきた人々に事情聴取をする。劇的な場面はほぼなく起伏も分かりやすくある映画ではないけれど、あまりにも良い映画だった。
“未解決事件”のもつ妙な引力。魅力をものすごく感じるとともに、ただただ残された遺族、友人たちの憤りと悲しみ、やるせなさを思って、どうか犯人が捕まって欲しいという切実な気持ちにもなる。本当に良い映画だった。
雨空

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