くまちゃん

ドミノのくまちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

ドミノ(2023年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

ロバート・ロドリゲスといえば、荒唐無稽なアイデアと暴力的なアクション、独創的なストーリーラインが特徴的だ。エロとグロが織り交ぜられ、その下品ささえもスタイリッシュに魅せる事ができる特異な映画作家。
かつてロドリゲスは「エル・マリアッチ」を低予算で制作した。いくつもの役職を兼業し、予算を抑えるためのありとあらゆる工夫を凝らしながら作品づくりに没頭した。その姿勢は今作にも見られ、自身の過去作で使用したセットをそのまま流用しているそうだ。それは良くも悪くも作品全体の安っぽさへと繋がり、「インセプション」ほどの目まぐるしさは感じられない。今作はクリストファー・ノーランの前後で評価もまた変わってくるだろう。

原題のHypnoticとは催眠術を意味する。ヒッチコックの映画にはワンワードの作品が多くヒッチコックがあと10年生きていたらどんな映画を作ったのか、どんなタイトルになったのか、そんな答えのない妄想的な自問を繰り返しこのタイトルに行き着いた。では催眠を題材にどんなドラマが展開するのか。全く捕まらない存在というのはどうだろうか。映画の神への信仰心から着想を得てリスペクトを捧げつつもオリジナリティを付与させた結果、観客の興味を惹くに足りない作品へと仕上がった。構想20年というのは熟考し過ぎなのではないか。もっと軽い気持ちで撮った方が質の良いものを作ることができたのかもしれない。映画の神はロバート・ロドリゲスを見放したのだ。

どんでん返しとは本来物事が逆転する事を指す。今作は現実世界と虚構世界が常に反転するため、真の意味でのどんでん返しと言える。しかし映画や物語としては観客を信じ込ませた上での裏切りがないとどんでん返しの効果は薄まる。失踪した娘を探す刑事ロークとその手がかりを持つデルレーンというサスペンスで物語を牽引し続けたほうが上策だっただろう。中盤サイキックバトルにジャンル変更がなされた事で観客は悪い意味での裏切りにあう。見ているものが実は虚構だった。これはいくらでも後付けができるため、傍観者達は初めから何も信じなくなるのだ。信じ込ませなければどんでん返しなど成立させることはできない。
実は嘘だったと明かす作りは「コンフィデンスマンJP」にも似ているが「コンフィデンスマンJP」はコメディであるためツッコミどころや安易な展開も含めて楽しめる。今作は真面目な作風であるため、その悪い部分が際立ってしまったのだろう。

ベン・アフレックは筋肉質な体系をしておりそのマッチョファッションの系譜に則り地味めな色合いのジャケットとシャツを着用している。この少しダサめな格好が筋肉を引き立て、逆に男らしく格好良いのだ。これはステイサムやスタローンをはじめとする全てのマッチョに該当する純然たる事実である。しかし、本来の機関に所属するロークは制服として真っ赤なジャケットを着用している。これが壊滅的に似合っていない。マッチョを理解していない。普通にダサい。身体がデカすぎて馴染めていない。

「ドミノ」という邦題も作品を表象するには不十分であり原題のほうが遥かに魅力的である。チグハグな珍作である今作において唯一の救いは上映時間が94分とかなり良心的な部分だろう。
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