Jun潤

窓ぎわのトットちゃんのJun潤のレビュー・感想・評価

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
4.2
2023.12.10

黒柳徹子原作×小栗旬×役所広司
原作は1981年に出版された黒柳さんの小学生時代を描いた自叙伝で、戦後最大のベストセラーと称される800万部を突破。
アニメーション制作は『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』でお馴染みのシンエイ動画。
監督・脚本も『映画 ドラえもん』シリーズで実績のある安心と信頼の八鍬新之介。

1940年(昭和15年)、東京の自由が丘。
小学生の黒柳徹子、トットちゃんはトモエ學園に転校してきた。
前の学校では、その独特な言動に先生が手を焼いてしまい、周囲に馴染むことができなかった。
トモエ學園の校長、小林先生はまずトットちゃんの話を聞けるだけ聞き、「君は本当にいい子だ」と彼女に伝える。
トモエ學園の校舎は電車の車両を再利用したもので、時間割もなく、その時に児童たちがやりたいことをやるというもの。
小林先生も、児童たちの好きなように自由に学ばせ、遊ばせながらも、決して甘やかしているわけではなかった。
戦争が近付く足音が徐々に大きくなっていく中でトットちゃんは、小児麻痺を持つ同級生、泰明ちゃんたちと共に成長していく。

そうそう、こういうのよ。
背景にある時代を象徴するような小物たちや、子どもの豊かな想像力が伝わってくる様など、『コクリコ坂から』や『となりのトトロ』を彷彿とさせます。
しかしそこかしこに、序盤はチラチラと、中盤にかけて明らかなほど出てくる戦争の影響。
国債発行や贅沢禁止などはまだ可愛い方で、車掌さんの出征や学校の銅像が二宮金次郎にすげ変わったことなどの地味めに描いているところが心をえぐるえぐる。
さらにはパパも出征して暮らしもどんどん貧相になって、ついには疎開することになるなど、中盤まで描かれていたトットちゃんの愛くるしさがどんどん薄れていくのも見ていて辛い気持ちになりましたね。

泰明ちゃんの身に起きたのはなんだったのか。
小児麻痺を原因としたものなら、最初から期限が付いていた友情ということで救いがないし、いっそのこと戦争の理不尽さが原因だった方がマシだと思ってしまいました。

しかし暗いメッセージばかりではなく、情報をなかなか得られないからこその子どもの想像力や、今の時代にこそ必要な個性を伸ばす大切さなども描かれていました。
特に印象的だったのは汲み取り式トイレから財布を探すトットちゃんを、手伝うでも応援するでもなくただ見守る小林先生でした。
描写されていただけでなく、多分だけど小林先生はいつも児童たちのことを見守っていて、何かあった時には責任を取れるようにしていたんじゃないかなって思います。
大人が責任を持つからこそ、子どもが自由の恩恵を享受できる。
今はどうかな?無責任に太平洋戦争に走り出した当時の陸軍と同じになっていやしないか。
しかし当時トモエ學園にトットちゃんがいたように、現代にもトモエ學園のような場所、トットちゃんのような子どもがいるのかもしれないと、想像するには十分の作品でした。

良いアニメは子どもとご飯の作画が良い。
今作は特に目と口。
Jun潤

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