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窓ぎわのトットちゃんのハマジンのレビュー・感想・評価

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
4.0
開始数秒、「バンザーイ」という喚声のなか提灯の群れがぼうっと浮かび上がる冒頭ショットであわてて襟を正す。本気と書いてマジのやつ。『この世界の片隅に』はもちろん、『この世界~』原作漫画の先行作品である滝田ゆう『寺島町奇譚』を強く強く想起。焼夷弾で学校が瞬く間に焼失するくだりや疎開で終わるラスト等、確実に参考にしてると思う(というか、戦時へ向かいつつある大井町線沿線の上流家庭と、色街玉の井界隈の下町家庭、それぞれのミクロから見た「戦争」を視覚化した作品として、対で語られるべきではないか)。トモエ学園校門の向かいに建つ朝日新聞社、電車型教室の学級文庫には森田たまの『石狩少女』、『アンクル・トムの小屋』ではなく『アンクル・トムズ・ケビン』、『一杯のコーヒーから』『小さな喫茶店』などのモダンな歌謡がいつの間にか『海ゆかば』に変わっている恐ろしさ。昭和十年代の細やかな生活描写・文化描写の数々に、時代考証にどんだけ金と時間をかけたのか、と気が遠くなる。
季節のめぐりをのびやかに描く、ある種「無時間的」な前半エピソードの丁寧な積み重ねから、中盤「昭和16年」と唐突に時制をテロップで示すことで、それまでの話を「歴史」の只中へと一気に叩き込むタイミングがあまりにも完璧で悶絶した。そして開戦の臨時ニュースと同時に瞬時にして家庭に侵入する言論統制(パパ、ママ呼びで罰金一銭)のえげつなさ。演出の1つ1つが容赦ない。
きわめつけはクライマックスの、葬式場の教会を飛び出したトットちゃんが駆け抜ける最恐の戦時描写。かけがえのない「個」を喪った悲しみと、それを文字通り「一顧だにしない」無慈悲な「全体」との対比には、木下恵介『陸軍』のラストも思い出したりした。
厚塗り、水彩、チェコアニメ風と、作画をガラリと変えて描く幻想シーンは『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』スタイルを踏襲。それぞれ短編アニメーションとして成立する完成度の高さ。にしても2編目のプールの幻想場面、その手前の入浴シーン含めロ○ショ○的に攻めすぎだろ!『となりのトトロ』でアウトな欧米圏では多分上映できないレベル。
ひとまず八鍬新之介監督の名前を覚えたので、過去作含めこれから追いかけていこうと決意。
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