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窓ぎわのトットちゃんのKIYOKOのレビュー・感想・評価

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
4.5
戦前〜戦時中の昭和の話なのに、現代の話を見ているように思えた。
そして見た後に人と語りたくなる作品だった。

心情がよくわかる上に説明的なセリフが少なく、絵で語ることを十分意識された映画だったと思う。
汚い部分も全部そのまま見せるというところも良かった。

キャラクターの仕草や表情の奥にある感情が存在しているので、見ていてとても奥行きを感じられた。

トモエ学園という、ある側面では枠組みから外れた子供達。
映画で描かれていた範囲でそこに通う子供のバックボーンを考えると、なかなかに生き辛そうな境遇の人が多い。

しかもトットちゃんの友達の泰明ちゃんも、左腕と右足が麻痺している上に、当時のクリスチャンとなるとかなり生きづらかったことだろう。

けれどもトモエ学園にはそういう差別的な意識はなく、「みんなが同じ」という思想が行き届き、自分たちが周りから浮いている腫れ物的な存在という意識もなく、のびのびと暮らせている。
(だからこそ泰明の腫れ物としての自分を自覚している子供が切なく思えた)

ある日「普通」の学校に通ういじめっ子の子供達がトモエ学園をヤジリに来るシーンが象徴的だけれど、かれらはトモエ学園をやはり腫れ物として馬鹿にしているが、トットちゃんをはじめとするトモエ学園の生徒たちが暴力ではなく、小林校長の教えに従い団結と歌でいじめっ子を追い返したところにグッとくる。

このシーンに、今の時代にこの映画を作った意味を感じた。

また、その様子をみていた小林校長の震える後ろ姿を入れてくるあたり、かなりニクい演出。
生徒たちが自分の教えを守ってくれたことに感極まっているのか、それともやはり小林先生自身も生徒たちが社会から浮いていることをわかった上で馬鹿にされたことへの悔しさなのか、など色々と想像できるカットだった。

心象風景のイメージシーンになるとセルルックではなく、アートアニメの技法で今までに見たことがないようなアニメも見られて良かったし、それが映画の中の緩急にもなっていて良かった。

客層もちっちゃい子供からお年寄りまで幅広かった。その人たちがどう感じたのかも気になる。

ぜひいろんな人に見て欲しくなる映画だった。
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