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窓ぎわのトットちゃんのstanleyk2001のレビュー・感想・評価

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
4.5
『窓ぎわのトットちゃん』
2023
シンエイ動画

「きいちのぬりえ」の世界に「茶色い戦争」が侵食してくる。映画史に残る名作が誕生した。

この作品は
・子供の視点から製作されている。アニメファン向けに作られてはいない。
・キャラクターデザインが蔦谷喜一の「きいちのぬりえ」の子供達の様でクラシックな可愛らしさがある。逆にいうと今時のアニメのキャラクターとは全く異なる。

・学習障害で小学校を退学させられたトットちゃんは子供を尊重して個性を伸ばすトモエ学園に入学する。戦前の日本にこんな画期的で独創的な学校があったことに驚く。

・小児麻痺(ポリオ)の少年泰明ちゃんとトットちゃんの交流が丁寧に描かれている。左手と右足に麻痺があり力が入らない泰明ちゃんは自己肯定感が低い。トットちゃんは泰明ちゃんの心には踏み込まないが身体にはどんどん介入していく。強引なトットちゃんにハラハラしたり笑ったり泣いたり。泰明ちゃんがプールに入り重力から解き放たれる場面はいわさきちひろの水彩画風の作画になる。この開放感あふれるアニメーションが素晴らしい。

・トットちゃんが見る白昼夢はクレヨンで描かれた画風で自由奔放に描かれる。ストーリーを語るセルアニメ部分もしっかり描かれているがこの夢の場面の破天荒さ、自由さは見るものの心も解き放つ。

・トットちゃんの父親はバイオリニスト。交響楽団のコンサートマスターを務めている。指揮者はドイツから日本に渡ってきたローゼンストック。日独伊三国同盟成立を喜ぶ日本人楽団員にローゼンストックは怒りを見せる。その理由は説明されない。

・電車の改札係りの男性が女性になっている。その理由は説明されない。

トットちゃんが飼っていた犬が居なくなる。その理由は説明されない。

・銀座の街を割烹着を着た女性たちが「贅沢は敵だ」とシュプレヒコールを上げながら行進している。この集団が何者なのか説明されない。

・トットちゃんはこれらの世の中の変化を目撃しているが両親に理由を聞かない。両親も説明しない。説明をする役目は観客である我々に投げかけられている。

昭和生まれの私は理由を全て説明できるが平成生まれのちょうど今子育て中の世代はすぐには説明できないかもしれない。なぜなら日本の学校教育では第二次世界大戦は「自分で読んでおく様に」と言われてろくに学習されていないからだ。

監督は今子育て中の世代に宿題を出した。調べて考えて子供さんに教えてあげてくださいと。

兵隊ごっこをしている子供たちが倒れた敵兵役を何度も何度も銃剣で突き刺すのは何故か?

なぜあの男の人は片足がないの?なぜあの人は目が見えないの?なぜあのおばさんは白い箱を抱いて泣いているの?なぜ建物疎開でトットちゃんの家が取り壊されるの?どうしてお弁当がご飯じゃなくてお豆さんだけなの?どうしてこんなにお腹が空くの?

それは21世紀令和の時代を生きる日本人が知っておくべきこと。

監督は直球を投げてきた。しかもイスラエルがガザ地区で子供を殺しているこのタイミングで。お腹を空かせて空襲に怯える子供は映画の中だけにいるのではない。

映画を観終わったあと、涙と共に戦争指導者たちへの怒りが湧いてくる。ネタニャエフとプーチンを殴りに行きたくなる。
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