ケミカルX

窓ぎわのトットちゃんのケミカルXのネタバレレビュー・内容・結末

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

大傑作だった。
作中で描かれた泰明ちゃんの死のシーンで涙を抑えられず、
嗚咽しないようにするので一杯になった。
泰明ちゃんの突然の死によって、トットちゃんの幸せな世界が瓦解して、戦争による死や抑圧が彼女を取り巻いていることが描かれるシーンが本当にすさまじかった。
日常に戦争が入り込んでいく描写の恐ろしさ(華美な服装を慎むよう町を行進する主婦たちなど)が話題になっていたが、本作の戦争映画としての要素だけでなく、トットちゃんのように既存の社会に馴染めず排除されてしまう子供たちを包摂するトモエ学園での生き生きとした子供たちの描写がすばらしい。中でも小児麻痺を抱えほかの子供たちのように動けない泰明ちゃんとトットちゃんの交流が子供らしいスケールのなかで綿密に描き出されている(プールや木登りのシーン)。
アニメーションの中に3パートほど画風が変わって想像の世界に登場人物たちが入っていくシーンがあるが、アニメーションとしても素晴らしい出来だった。
戦争による抑圧・空腹や様々な偏見の中で、泰明ちゃんとトットちゃんがその交流を通じて新しい経験を積んでいく様子が丁寧に描かれているからこそ、泰明ちゃんの死のシーンの悲しみが本当に胸に刺さる。
また、トモエ学園を運営している小林校長の苦悩や喜び、トモエ学園が空襲で焼け落ちた際に描かれた狂気的ともいえる教育への情熱も描かれていて印象深い。
戦争描写という点では、トットちゃんの父がバイオリン奏者であり、その指揮者がユダヤ系ドイツ人であることが示唆されていたり、物語のはじめから登場していた駅員が説明なく女性の駅員に代わっていたり(徴兵の示唆)、その変化を細かく説明しないのも作品に奥行きを与えていた。焼夷弾そのものの描写も非常にリアルで、可愛らしい世界観とのギャップに一層恐怖が与えられる。食べ物の歌を歌いながら帰っていたトットちゃんと泰明ちゃんをしかりつける大人(その後外食券の食堂に入っていく)の描写も理不尽である。とにかく語りどころの多い映画で、個人的には『この世界の片隅に』と比肩する作品だった。
あと、物語の終盤、小林校長とトットちゃんが抱き合って泣くシーンがあるが、背景のソファーの並びが明らかに「徹子の部屋」を意識していた演出だと思った。
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