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窓ぎわのトットちゃんのumisodachiのレビュー・感想・評価

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
4.8


黒柳徹子によるベストセラーのアニメ映画化。

落ち着きがないことから公立小学校を追い出されたトットちゃんは、トモエ学園という少し変わった小学校に受け入れてもらう。音楽家の父、優しい母と裕福に暮らすトットちゃんは、子供たちの自主性を尊重するトモエ学園で親しい友人たちと充実した日々を過ごす。しかし、彼らの周りには戦争の影がハッキリと近づいていて……。

素晴らしい映画化。素晴らしい。

あくまでもトットちゃんの主観からの描写に徹底しているので、パッチワーク的に展開されていく各エピソードには子供が理解できる範囲の説明しか与えられない。トットちゃんの同級生たちのバックグラウンドは観客が推し量るしかなく、少ない手がかりを基に観客は点と点を線で繋いで、彼女をとりまく状況や時代や大人たちの感情を理解していかなければいけない。

想像の世界に入るたびに、いろいろなタッチのアニメーションで展開される豊かなイメージ。楽しく健やかなトットちゃんの世界が少しずつ、しかし確かに歪んでいく不穏な気配。子供たちを見守る大人たちの切なる願いと、それらが無情にも無力化していくことの残酷さ。1日1日を全力で生きているトットちゃんの周囲数メートルの世界が、時代を超えて我々にパワフルに語りかけてくる素晴らしい映画体験だった。

おそらく、本作を小さい子どもが見ても分からないことが多いはずだ。しかし、「あれって何のこと?」と大人に質問する展開も含めて、本作はハッキリと子供たちを眼差して作られていると私は感じた。決して懐古趣味に終始してはおらず、本作を観た大人たちが未来を担う子供たちに良い世界を与えたいと思うように、本作を観た子供たちが世界って素晴らしいと思うように。そんな想いが随所に込められていたように思う。

特に好きだったのは雨のシーン。頭では理解できなくても不穏な空気を感じてしまう子供たちが、音楽(芸術)を用いて人間の尊厳を保つことを本能的に実践する見事なシーンで涙が溢れた。あとは、トットちゃんが思わず駆けだすシーン。あんなにも直感的に世界がぐにゃりと歪む様子を、それを子供が感覚的にわかってしまう様子を描写できるものなのかと感心した。

アニメーション表現も、ストーリーテリングも、いまこれを作る異議も、すべてにおいてパーフェクトな作品だと思う。全力でおすすめ。




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