真田ピロシキ

窓ぎわのトットちゃんの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
5.0
新年早々えらいことになってますが、その直前に見た映画です。

私の話をするとTwitterでレイシストセクシストナショナリストの腐れ害オタを見すぎたせいでオタクサブカルにもはや嫌悪感しかなく、加えて戦争アニメと言われるとゆるふわ全体主義アニメ『この世界の片隅に』のことがあって警戒感がとても強かった。

しかしこれは良かった。これまた私のことを言うと自閉症スペクトラムで周囲から浮いた人生を常に送っていたために、どう見ても発達障害(ADHD?)と思しきトットちゃんが一般的な学校から匙を投げられた挙句に独特の教育方針を持ったトモエ学園に入ってのびのびと自分を活かせる居場所を見つけられる。これだけでも良いもの。90年代九州の片田舎に住んでいた自分にはこんな場所はなくただ自尊心をすり減らすだけだった。そういう意味ではこの時代にこんな場所に恵まれたトットちゃんは果てしなく運が良い人で、特権的な存在の話と思わないこともない。

だけどそれは些細なことで重要なのは太平洋戦争に突入する全体主義化真っ只中の世の中。軍隊なんてものは究極的に型にハマった人間を求めるものだ。定型の人たちが意識的であれ無意識的であれ異常な社会に順応する中で、そんな世の中にはそぐわない発達障害の子たちこそが自分らしく生きている。規格品になることを拒絶する。小児麻痺で体の不自由な泰明ちゃんがクソガキどもの投石から身を挺してトットちゃんを庇った姿。またトットちゃんのお父さんが飢えても魂を売らなかった誇り高さ。そういうものこそ本当の強さなのではないですか?タモリが新しい戦前と言ったように今の日本はますます従順なだけの画一的な人間を求めてきてるが、それに抗うのは強力な自我を持った個性的な人間、即ち多様性の尊重に他ならないと訴える本作の強度はとても強い。黒柳徹子さん本人が冒頭とラストでナレーションを務めるのも疑いようのない強固な意思を感じる。声高な反戦映画ですよ。

反戦映画の意味では泰明ちゃんが死んだ後に出征を見送り路地では子供が戦争ごっこに興じているグロテスクさ、その裏では傷痍軍人や戦死者の骨壺を抱えた遺族が映される様子のようにボカさない。さりげないところでも改札のおじさんが女の人に入れ替わって、お母さんが服装だけでなくどんどんみすぼらしくなるなど全方位で戦時体制に入る世の中が描かれている。安心したのは華美な両親の服装を見咎めた警官を上手くしてやったシーンで笑い声は出なかったこと。このアニメには片隅にで憲兵を微笑ましく見てたような誤読はない。客にも安心。

キャラデザインも独特で日本の売れ線アニメはもちろん、ジブリとも離れた昔の児童書のようなもの。今時いいのか?と思う子供の裸を描かれているのはこのキャラデザだから大丈夫という考えなのだろう。HENTAIはどんなものでも欲情するのでやはり良くない気もするが、プールの幻想的で芸術的なシーンはあの恥ずかしくなさを表すのが必須か。また声の演技も少なくともメインどころには本職のアニメ声優はおらず、どなたも良い。小林先生の役所広司はもちろん、お父さんが小栗旬とは。これらも規格品であることを拒むアーティスティックな作品であることを示す。どちらかと言うと『幸福路のチー』のような海外アニメの趣がある。まだ日本でも過去が舞台とは言えこういう現実に根差したアニメが作れることに感動した。終盤はあいみょんまでボロボロ泣きっぱなし。アニメ嫌いな人こそ見る価値がある。