三四郎

窓ぎわのトットちゃんの三四郎のレビュー・感想・評価

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
3.5
「世に恐るべきものは『目あれども美を知らず、耳あれども楽を聴かず、心あれども真を解さず、感激せざれば燃えもせず』の類である」
小林校長先生は真の教育者だ。この言葉を心に生きていきたいと思った。

トットちゃんがトモエ学園を初めて訪れた日、トットちゃんと小林校長先生は二人きりでお話をするが、その間、トットちゃんの母は、喫茶店でコーヒーを飲む。そこで流れていた流行歌「一杯のコーヒーから」と「小さな喫茶店」。軍靴が響く前のまさに華やかなりし1930年代の歌だ。

日独伊三国同盟締結を報じる新聞に楽団員たちは「ドイツと組めば怖いものなしだ!」と沸き返るが、トットちゃんを可愛がっていた指揮者ローゼンシュトック氏は浮かぬ顔をし、一瞬その場に不穏な空気が流れる。彼はユダヤ系だったのだ。
その後、真珠湾攻撃と日米開戦を伝えるラジオ、改札のおじさんの姿は消え、代わって女性が改札に立ち、男性が兵隊として戦地へ出征し、銃後は女性が支えているということがサラリと描かれ、街頭では千人針、華美な服装は時局に合わないと注意を受けるトットちゃんの母。
戦争により世の中がガラリと変わっていくところを実に巧く描いている。食堂で流れているのは歌謡曲ではなく「海ゆかば」。トモエ学園の教室に飾られている生徒たちが描いた絵も戦車や戦場の絵ばかりになっている。校舎の先端にあったギリシア彫刻も二宮金次郎像へと変わった。

とても良いお話だし本当に良い映画だと思う。
泰明ちゃんと泰明ちゃんの母の涙…、どのエピソードも丁寧に描かれており、何度目が潤んだことか…。

ただ、「万歳」で送り出される兵隊たちの行進、足を失った負傷兵、盲目となった人、遺骨の入った桐箱を抱きしめ静かに泣く女性の姿…と、最後の畳みかけるような反戦メッセージの強さに嫌らしさを感じた。
平和を願う気持ちは皆同じで、そんなわかりやすい反戦メッセージを挿入せずとも、誰も戦争なんかしたくないさ…。戦争はしたくなくとも、話し合いだけでは解決できず、相手がいれば嫌でも戦争になってしまう…それが現実じゃないか…。攻められても「戦争反対」「平和が一番」と言い続けるつもりですかと思ってしまった。
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