ひよこ

窓ぎわのトットちゃんのひよこのネタバレレビュー・内容・結末

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

すごいものを見た。

正直、原作の存在は知りつつも読んでおらず、評判を耳にするまで観に行くつもりもなかった映画。
だからこそ失礼ながら油断していた。
まさかこんなに号泣するなんて思わなかった。

序盤から長い時間に渡ってなんでもないトットちゃんの平和な毎日のシーンが続く。
現実と空想がシームレスに続いているトットちゃんの目に映る世界を、アニメのタッチの違いで描き分ける手法は見ていて楽しい。
けれどこの日常シーンが本当に長いので、ストーリー展開を事前に何も知らなかった私は(あれ、これ時代背景として戦時中ではあるけれどトットちゃんの目に映る日常ほのぼの映画だったのか…?思った以上に緩急がなさすぎて私には刺さらなかったかも……)なんて呑気に考えていた。

とんでもなかった。

この日常パートの長さが、のちに待ち受ける展開をより重たいものにするなんて。
トットちゃんの平和な日々にもやがて戦争の影が忍び寄る。そして訪れる友達の突然の死。
このシーンに差し掛かった時、あの長い日常パートを見ていたからこそ、見ていた長さ分の"さっきまであったあたりまえ"が消えてしまったことに心の底から喪失感を味わった。
そして青空のもと笑顔で人々が出兵を祝う街中をトットちゃんが泣きながら走るシーンで、この国がもう後戻りできないほどおかしな方向へと進んでしまったことを思い知る。戦争はこんなにも人々を狂わせながら価値観や考え方を変質させてしまうものなのかと寒気が止まらなかった。

高校生の頃授業の戦争体験談で聞いた『戦争が始まって一番最初に消えるものは愛でも思いやりでもなく「真実」です』というのはこういうことかと静かに理解した。

自身が今生きる日本が笑って暮らせることに感謝をしつつ、今なお戦争状態にある場所への平和を祈ってやまない。
そして、トットちゃんが今もなおテレビの中で健在なことがこんなにも嬉しい。
何でもない今日があることの尊さを噛み締めながら、今を全力で生きて、平和な世界を作っていくために自分にできることは何だろう。
ひよこ

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