とむ

【推しの子】Mother and Childrenのとむのレビュー・感想・評価

4.0
テレビアニメ初回放送90分拡大!?
なんで!?随分思い切ったことするなぁと思ったけど、観終わってみればなるほど。「ここまでを1話」とするにはこれ以上無い見せ方だったなと製作陣のこの作品を確実に売るという決意を感じました。

90分という尺ならテレビでスマホぽちぽちしながら見るよりは劇場だろう、と滑り込みで鑑賞。
正直、今作(一応映画として見てるので1話をひとつの作品として定義します)の大オチに当たる問題のシーンに関してはSNSの広告や原作が話題になった時に情報として流れてきていたのでわかってる状態ではいたのですが、それを差し引いても引き込まれる展開でめちゃくちゃ興奮しました。


最近、テレビアニメでさえ劇場用のアニメーションが?と思うくらい整った作画だったり、ぶっ飛んだ演出が跋扈していてるので、
そういう意味ではアニメーション全体としてかなり抑制の効いた、あえて意地悪な言い方をすると地味でよくある感じのアニメではあるんですが、
ここぞ!!という時にアートアニメの様な作画になったり、息を呑む様な一枚絵を差し込んできたりと抑揚のバランスが的確な作品で驚きました。


ストーリー的にも、言ったらプロローグとして登場人物を手際よく紹介していき、
おそらくここから本題と思われる高校生パートで子役の女の子だったりが再集結することを示すモンタージュに心底ワクワクしましたし、早く続きが見たい!と思いました。

単なる「転生モノ」「強くてニューゲームモノ」としてのお約束を単なるお笑いの要素として使うのではなく、
ラストの展開によりある種の使命として「役者・アイドル」を目指すことになる主人公二人が転生前の知識や経験を執念の如く利用す流であろう舞台装置として使うんだろうなと理解した瞬間には思わず舌を巻きました。

アイドルをテーマにしたブラックコメディや単純な業界あるある的なストーリーなのかなぁと思っていたのですが、一本軸になるサスペンス要素が加わったことでここまでの話題作になったんだろうなとようやく理解しました。
続きはテレビアニメとして放映されるというこの贅沢さ、劇中のセリフを借りると「今ドキだな〜」!
準備は整った。早く続きを見せておくれ。


余談ですが、本作を見たあと、主題歌であるYOASOBIの「アイドル」(さらに余談だけど、時折挟まれる鳥の囀りはきっと好き勝手なツイートのメタファーだよね)のMVを見てきたのですが、
ラストでアクアマリンとルビィがテレビを見つめている様子を着ぐるみを着たアイが見つめている構図にゾクッと来ました。

アクアとルビィにとって、転生前(後もだけど)は文字通り「推し」である訳だけど、
手の届かない存在であったアイを母親に持つ子として産まれたことで母子としての関係を持ち、「愛する家族」「最推しのアイドル」の両方を喪失し、
彼・彼女が見ていた偶像に永遠に囚われ続けるという煉獄の様な運命を示唆する複雑な入れ子構造になった構図に心底怖く、美しく思ったんですよね。

そこからアイが二人に飛びつき口にするあの言葉。
それを受けて、母の庇護を夢想して微笑み、それまで偶像に囚われていた意味とは異なる決意を胸に、再びテレビに向き直る(前を向く)…いや、完璧かよ。

只者じゃねぇ作品になるのは間違いなさそうです。
とむ

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