KnightsofOdessa

Master Gardener(原題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Master Gardener(原題)(2022年製作の映画)
2.0
[黒人の恋人を持つ私は、人種差別主義者ではありません?] 40点

ポール・シュレイダー長編23作目。主人公ナーヴェル・ロスは、裕福なヘイヴァーヒル夫人の所有する屋敷の庭園を管理する園芸家である。後ろ暗い過去を持った彼は、厳格なまでにプロフェッショナルに傾倒しているという点で前作『カード・カウンター』の主人公ウィリアム・テルと似ているが、本作品のナーヴェルがウィリアムと異なるのが、庭園の持ち主である夫人と寝ているという点である。ナーヴェルは白人至上主義者だったが、黒人神父の家族を殺すことを拒んで仲間を裏切り、証人保護プログラムでここに来ている。しかし、彼の身体には鉤十字が刻まれたままなのだ。彼が夏でも長袖でキッチリと身なりを整えているように見えるのは、実はこの入れ墨を隠すためだったのだ。そうすると、セックスしている夫人はそれを知ってて受け入れいてるわけなので、この物語が奴隷制時代アメリカ南部のプランテーション農場にも見えてくる。そこに夫人の姉の孫であるマヤがやって来る。彼女は黒人とのミックスだ。横暴な大叔母しか身内がおらず、亡くなった母親にドラッグを売っていたディーラーに目を付けられている彼女を放っておけなくなったナーヴェルは彼女に肩入れし始める。彼が鉤十字の入れ墨を消さないのは、過去の自分がどういう人物だったかを忘れないため(出所後も刑務所のような生活を続けるウィリアム・テルにも通ずる)だったのかもしれないし、映画的には証人保護プログラムによって別人になることが精神的な意味でも"別人になる"ということを比喩的に表しているのかもしれないが、彼が変わったことの証明としてマヤが使われているようでなんとも。"黒人の友人を持つ私は、人種差別主義者ではない"という正当化論法を実践しようとしているようにも見えるが、そもそもが間違いなのに実践してどうする?、と。また、彼が園芸家であることで、植物薀蓄を語り、それが彼の状態を暗示するなどのしかけもあるが、どれもスベってると思う。結果的に『カード・カウンター』の見るも無惨なセルフ・パロディであり劣化コピーとしか形容の出来ない作品に終わってしまった。残念。
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