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バカ塗りの娘のハルのレビュー・感想・評価

バカ塗りの娘(2023年製作の映画)
3.8
ヒューマントラストシネマ渋谷の舞台挨拶回にて。

伝統工芸、受け継がれていく文化を軸に家族の関係性が描かれるお話。
心を紡ぐ物語の美しさに付随する、後継者不足の現実に深く深く考えさせられた。
ちなみに“津軽塗”の俗称を“バカ塗り”と呼ぶらしい。

設定だけを切り取ると『高野豆腐の春』に似ている。
ただ、あちらがコミカルに展開していたのに比べこちらはシリアス。
職人気質な肌触りとでも言うべきか。
淡々と漆を塗る作業が繰り返され、父と娘の言葉少なめのやり取りは粛々と。
互いの思いは青森の雪景色に吸収され、すれ違い、静けさが訪れる。
継ぎたい娘、工芸を仕事として成立させることの難しさを知る父親。
親心と職人としてのプライドのぶつかり合い…本音では嬉しいけれど、娘に辛い思いをさせたくない親心が沁みるね。
こうした問題は全国的にあるのだろう。

座長の堀田真由は初の主演。
真摯に役へと向き合っている姿がとても印象的だった。
家族のため、愚直に頑張る奮闘ぶりがしんしんと心を濡らす。
地方で毎日スーパーの仕事、代わり映えのしない日々。
お父さんを一人にもできず、かといって何ができるわけでもない。
幸せの基準は人によって違うけど、彼女自身も「このままではだめだ…」という虚無感と戦っている。
社会人になり、うまくいかず岐路で藻掻く様に共感を覚えた。

大なり小なりみんなが経験する道だよね。
家族と仕事、周囲との関係性。
絡み合うと本当にバランスを取るのは困難だ。
優しい人ほど他を考え、自己犠牲を払ってしまうのもリアルで…美也子の姿は等身大だからこそ、儚げ。
そんな伝統工芸と家族ドラマを題材にした一作。

こうして映画を通じ、文化を体感する時間はとても尊い。
劇中では実際に器やお箸がいくつもでてくるし、その鮮やかな“色の持つ力”に心を奪われてしまう。
ドキッとするほど濃い“朱色”の引力は凄まじい。
そうした、未知の感覚に触れられる瞬間が凄く好き。
そのため、こうした作品にもすぐ惹かれてしまうわけだが…

職人さん達は生活がかかっているわけで、観光で訪れる人や買い物するのとはまるで違う現実。
『残していく難しさ』と『周りに犠牲を強いてしまう厳しさ』が身に染みた。
「大切な文化、絶対に後世へと伝えなければいけない」なんて安易な言葉をよく見聞きするが、綺麗事は内情を理解してから言わないといけないな。

本作は伝統文化の魅力を描きつつ、そこにまつわる家族の“想い”を描いた作品。
自分としては好みなテイスト、ただ…全体的にゆったりゆっくり。
“動き”を求めてしまうと長めに感じてしまうかもですが、時には静寂を楽しみ、文化を慈しむ時間と戯れるのも悪くないはずです。

〜舞台挨拶〜
『教場0』や『ドラマ『CODE-願いの代償』で注目度を増している、堀田真由さん主演ということで、満席の舞台挨拶。
芝居も上手だし、ルックスも抜群、人柄も◯
何より“声がいい”
よく通るハスキーな声はとても魅惑的なので、彼女の最大の武器に感じました。
出演作は今後どんどん増えていくんだろうな〜そう思わせる確かなポテンシャル。

そして、今回の目当てである小林薫さん。
『秘密』で見た時に初めて意識した方で、あのセンセーショナルな作品の印象が未だ残っているんですよね。
目の前にいる彼は話が面白く、ユーモアに溢れていて、とてもチャーミングな俳優さんでした。
大ベテランなのに気取った所はなく、観客に『何回目?』と訪ねたり(その日4回舞台挨拶をしていて全部参戦した猛者がいたらしい)
津軽弁習得までの苦労話やバカ塗りの制作秘話まで盛り沢山。
貴重なお話ありがとうございました。

音楽も映画もスポーツも現場に行く事で摂取できるエネルギーは実に大きい。
これからも可能な限りこのスタイルを継続できたらなと思います。
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