こなつ

バカ塗りの娘のこなつのレビュー・感想・評価

バカ塗りの娘(2023年製作の映画)
3.8
バカ塗りってそういう意味だったのか、、日本を代表する伝統的工芸品の漆器「津軽塗」が、こんなにも手間のかかる技法で作られているとは知らなかった。

青森県出身の高森美由紀さん原作の小説の映画化。

寡黙で無愛想な津軽塗職人の父清史郎(小林薫)と引っ込み思案で人付き合いが苦手な娘美也子(堀田真由)は二人暮らし。美也子は、高校を卒業してスーパーで働きながら父の仕事を手伝っている。兄ユウ(坂東龍太)は父の仕事を継がないと家を出て美容師になった。母も貧しかったからか、父に愛想を尽かしたのか、家を出て行ってしまった。不器用で何をしても失敗する美也子だったが、津軽塗は好きだった。需要も減り危機的状況にある津軽塗に気力を失いかけている父に、素直に跡を継ぎたいとは言えない美也子。

「津軽塗」は、塗っては研ぎ、塗っては研ぎの繰り返し。数多くの工程とひたすら日数のかかる仕事に驚く。バカなほどに手間暇かけて塗っていく作業だから通称「バカ塗り」とは良く言ったものだ。映像は、静の中、黙々と丁寧に作業をする二人の様子がひたすら流れる。サッサッと塗っていく音、炭で研ぐ音、それだけが静かな空間に響く。心地よい音であり、画面に引き付けらる。ものづくりの美しい世界がそこにあった。

無口で職人気質の清史郎だが、子供達を心から愛する父の姿を小林薫が好演。上手く世の中に馴染めず、自分の考えを口に出せない不器用な美也子を堀田真由が粛々と演じている。また家を出ても妹を思う兄の言葉に、家族の深い絆も感じて温かい気持ちになる。93歳の祖父の言葉、木野花演じるおばさんの津軽弁が心和ます。

何度も塗り重ねることで生まれる津軽塗は、何と美しいのだろう。物作りの真摯な姿勢が伝わってくる手仕事に心打たれた。美也子もまた大きな挑戦をすることで自分の道を見付けていくラスト。

地味な作品ではあるが、津軽塗の魅力が美しい景色の中でゆっくり流れて心地よい時間だった。
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