誰に共感するでもなく、ただ呆然と凄まじいものを目撃したなと思った。咀嚼しきれないのですが、蝶衣からしたらそんなに容易く咀嚼などされてたまるものか、と思うかもしれない。「覇王別姫」という演目自体はずっと変わらないままなのに、目まぐるしく動いてゆく世間に翻弄されてしまう。役者側だって勿論影響は与えただろうけど、こんなに「京劇を汚した」責任が役者にあるなんて言うのは辛辣すぎる。文化は人間の営みから生まれるのだから、栄枯盛衰があるのは当然ではあるのだけど心が痛かった。
とてもフィクションとは思えない、ドキュメンタリーのようなシーンの数々。特に蝶衣と菊仙という、ともに小樓を愛した2人の絡みが印象的。蝶衣は菊仙に嫉妬し続けるが、そんな菊仙さえも、蝶衣と小樓の唯一無二の関係に手を伸ばすことはできない。小樓に淫売と言われた菊仙の顔がわたしの脳裏によく焼き付いている。小四が最後に囲まれるシーンを含め、各々の屈折した愛が重くて重くて、最高に人間らしかった。
