なしの木

さらば、わが愛/覇王別姫 4Kのなしの木のネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

美しく、ただ哀しい。
登場人物それぞれが幸せになりたいだけなのに時代がそれを許してくれない。

阿片の離脱症状に苦しむ小豆を菊仙が抱くシーンが泣けた。お互いが憎いはずなのに、小豆は母を求め菊仙は失った子を抱くように小豆を慈しんだ一瞬だった。

凋落する権力者の描写に容赦が無い。
破産した清朝の宦官はタバコ売りになり、京劇の重鎮であった袁は労働者の敵として処刑され、小豆を追い落とした小四まで……。

宦官の慰み者にされた小豆が、赤ん坊を拾うことを許されたのは師範に罪悪感があった事と、演者として認められてただの見習いの子どもから一足飛びに大人としての権利を得たというように見えた。傷ついて、自分と同じ境遇の赤ん坊を助けることで少しでも救われようとしている、そんなシーンだった。

京劇を、美しい小豆を求めるのはいつもその時代の支配者たち。愛してやまない石頭にだけは弟としか見てもらえない。

最初と最後のシーンの小豆は、美しくて幸せそうで儚げであれは石頭の見てた夢だったんじゃないかなとさえ思えた。小豆はもう既にあの場所には居なくて、1人の残った石頭はずっと小豆の夢を見てる。そんな笑顔に見えた。

男に生まれ、を女に生まれと言い替えて歌うことに抵抗を感じていた小豆がそれを一旦は受け入れて京劇の女形として生き、それでも最後の最後に石頭の前では「男に生まれ」と歌えたのは小豆にとっての救済だったのか、石頭にとっての贖罪だったか。

産まれたままの姿である多指症を受け入れてもらえない。それを実の母親に、それも捨てられるために切断されるという何重もの自己否定。そこからの過酷な訓練。そこで唯一救ってくれた石頭から裏切られた小豆はもう生きるのは難しかったのではないかと想像する。
なしの木

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