CINEMAと暮らす

走れない人の走り方のCINEMAと暮らすのレビュー・感想・評価

走れない人の走り方(2023年製作の映画)
3.4

前作『豚とふたりのコインランドリー』は、コインランドリーとその前の道という限られたシチュエーションで、2人の男女の時間が交差していく様子を描いていた。全体的に落ち着いたトーンでまとまっていて、特徴的な雰囲気の短編だったことを覚えている。

本作では規模が大きくなった分、尺も展開も増えて、見どころが多い。物語は若手映画監督が次々と困難に見舞われながらも、なんとか映画を形にしようと奮闘する様が軸になっている。さらに、レンタルショップや映画館など、映画にまつわるサブストーリーが展開され、作品全体が映画愛で満たされていく。

主人公が絶望の淵に立たされた時、スッと現れ、「笑って」と語りかける人物。威嚇する主人公と無邪気に笑う子ども。そして、それを見る私たち観客。たった1分程度のシーンだけど、「これが映画だ」とシンプルに刺さってくる。

若手監督の苦悩を描いた作品は、石井裕也の『愛にイナズマ』が記憶に新しい。どうして、この手の映画は心を打つのか。観客として映画を観ていることが主の自分にとって、作り手はいつも輝いて見える。この人たちが居なければ、自分の人生の豊かさは削がれてしまう。映画作りの尊さ、そしてそれを支える全ての人に感謝している。