スターサンズ×吉田恵輔は裏切らない。
監督のQ&A付き最速試写会で鑑賞させていただきました。吉田監督とスターサンズの作品が好きなので楽しみにしていましたが、今作も素晴らしかったです。
一瞬も目が離せなかった。容赦なく何度も襲い来る絶望と苦しみ。観ている我々も心が抉られる気分だ。
脚本がすごかった。幼女の失踪事件を描くにあたり、最後に娘を見た弟の存在と、母親はアイドルのライブに行っていたという設定にしたのが面白い。弟に娘を預けて遊びに行って娘が失踪してからも気付かずにライブを楽しんでいた引け目と、弟の真相を知った後に弟をなじり攻撃する姿。ネットの誹謗中傷に傷つけられているのに、そんな自分は弟に暴言を吐く。ものすごい速さで暴言LINEを打ち込むシーンが忘れられない。
失踪事件を取材するテレビマン砂田を通してメディア側が並行して描かれたのも面白かった。それぞれの立場に正義があり、次第に何が正義かわからなくなっていく。誠実でありたいのに、自分の作った番組で当事者を傷つけ、事実を伝えるべきメディアの立場にありながら傷つけないために事実を報じることを避けようとする。
沙織里との温度差でぶつかる夫の隠された想いも描かれたり、とにかく各人物が多面的に描かれていて、吉田監督は人物描写が本当に巧い。
めちゃめちゃ心抉ってくるのに、少しの救いを描いてくれるのも良い。あの光の中の指先に涙した。
石原さとみの新境地を見た。吉田監督も仰っていたが、石原さとみと吉田監督は相容れない存在だと思っていた。吉田監督の作品が好きな私は石原さとみは正直ちょっと苦手なタイプだが、映画の中では石原さとみは消えていて、そこにいたのは沙織里だった。
他キャストも全員良かった。中でも弟役の森優作。予告も見ていなかったのでこのようなキーパーソンがいるとは知らないで見たが、凄かった。森優作、助演賞取ると思う。監督が話していたが、石原さとみ、中村倫也、青木崇高がドラマ的な俳優だから、3人以外をユーロスペースやK'sシネマで上映している映画に出ている俳優をキャスティングしたそうで、わかりすぎた。細川岳が出ているのも嬉しかった。
以下、監督のQ&Aより印象的だった話
・どうやって折り合いをつけて生きるかをテーマに映画を作っていて、「空白」では「みんなどうやって折り合いつけてるんだろう」と台詞でモロに出した。本作は折り合いをつけられない人の話。娘がいなくなるなんて折り合いのつけられないことだし、つけてはいけないこと。
・空白の続編を作ろうと思って本作を書き始めた。人気が出てきたから続編出したと思われるのが嫌で続編にはしなかったが、地続きよ話。
・登場人物の職業について。空白の続編と考えていたから設定上地続きな部分がある。豊が漁師なのは、空白の父親が漁師だからで、元々港とかで会う話を考えていて、古田新太も出てくる予定だった。弟がミキサー車を扱う仕事しているのは空白の撮影が終わって車に乗っている時に前にミキサー車があって良いなと思ったから。沙織里のミカン畑もミカン畑いいなと思って。元々空白と同じ蒲郡を舞台にするつもりだったが、静岡になって、静岡にはミカン畑もあったのでそうした。舞台は蒲郡じゃなくなったが、蒲郡もシーンに出した。
・空白でマスコミをマスゴミ的に描いたが、マスコミ側も本当は描きたかった。それを今作で描いた。
・弟が砂田に車の中から何かを言うシーンと後に砂田が何かを言うシーンは、音を消しているが音はあってもいいと思っていて、あの二つのシーンは自分がやられて嫌だと思ったことも少し経つと忘れて自分もやってしまっていることってあるよねというのを表している。
・虎舞竜のシーンは石原さとみの大変なシーンだったから細川岳が台詞言うのを緊張していた。
・少しユーモアを入れたシーンがいくつかあるが、本当ならいくらでもふざけられるが、こういう事件の当事者がいるので傷つけることのないよう按配に気を遣った。
45分くらい監督の話を聞けて、話もめちゃめちゃ面白くて大満足でした。プレスシートもいただけて感謝！
ユーロライブにて。
