らんら

ミッシングのらんらのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
3.9
やっぱり、吉田恵輔監督の映画が好きです。

映画やドラマはあくまでエンタメ、フィクションなので劇中の人物を極端に悪人にしたり善人にしたりします。それもまた創作物の醍醐味なのですが。

しかし、この作品には「娯楽」と言えない程のほどのリアルがあります。

吉田恵輔監督の作品は、一見救いようがなく、人間の綺麗とは言えない部分が多く描かれているので「鬱映画」と俗に呼ばれがちですが、この作品を観て改めてそうではないと感じました。

吉田監督の作品は、とても人間愛に溢れてる。
「世界には善い人がいて、悪い人がいる。」そういう二元的な描き方をしていません。

人に害を与えたり、時には誰かを心から思いやったり、矛盾ばかりの人間の性(さが)を多面的に描いているから、劇中の人物が
「キャラクター」ではなく「一人の人間」に見えるんです。

生々しいほどの人間性。創作物においてここまで忠実に人間を描いているのって吉田監督くらいなんじゃないか、と思わされる程です。

人は誰かと関わり合わないと生きていけなくて、でも誰かと関わり合うことで失敗したり、取り返しのつかないことになったりもする。
劇中でも、あの時ライブに行ってなければと後悔したり、そもそもそのアイドルグループがいなければ…と思わされたりもします。
けれどそのアイドルに救われたこともあったわけで…
人間社会の複雑で数奇な様と美しさを同時に摂取することができました。

監督も、俳優陣も凄く人間への理解がある


本作は決して大団円といった終わり方ではありません。しかし、観終わったあとの謎の清々しさ。辛い展開ばかりなのに嫌な気持ちが残らない不思議。

俳優陣は皆とても素敵でした。

主演をされている石原さとみは、いつも役への解釈が深く、演技が上手いのですがビジュアルが影響してか少女漫画の主人公みたいな役を当てられることが多いです。
役作りにもストイックでしっかり実力派だけどハマり役が中々こないタイプの俳優さんな気がする。

だからこそ、本作の主演が石原さとみで本当に良かった。石原さとみ、本当に凄まじくててもう演技なのか素なのか観ていて分からなくなりました。
これ彼女の出演作の中でも過去一の素晴らしさなんじゃないでしょうか。

彼女が涙を流すシーンが沢山ありますが、どのシーンもちゃんとその状況に起因した表情と声で演じ分けられていて、演技の幅がとても広い。 本当に鳥肌がたちました。

青木崇高も、中村倫也もすごく良かった。
中村倫也のあの目は忘れられない…
どの人物も印象的。

本作はリアルな描写と展開ですが、ただ淡々と状況を描いているドキュメンタリー的な作品でもないのがまた魅力です。
ちゃんとドラマ的な要素や美しい画がある。
細かい演出にも唸らされます。

吉田監督作品にはいつもラストでグッと心が掴まれますが、本作もしっかり掴まれました。
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