横川百子

ミッシングの横川百子のレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
3.5
石原さとみさん 足し算のお芝居
吉田恵輔監督  足し算の演出

青木崇高さん  引き算のお芝居
森優作さん   引き算のお芝居
中村倫也さん  引き算のお芝居

鑑賞後まず頭に浮かんだのが上記の区分けで…。
本作において個人的に心が動かされたのは
全て「引き算」的表現の御三方でした。

て、ゆーか世間では石原さとみさんのお芝居が評判で、今年の演技賞レースの中心みたいに言われてるみたいですけど、それよりなによりまず…、

主演男優賞   青木崇高
助演男優賞候補 森優作
助演男優賞候補 中村倫也

って事で世間はまず大騒ぎしているべきなんじゃないでしょうか?!ホントは。

「足し算のなんちゃら」「引き算のなんちゃら」って、ナニ意味わからん事ゆーてんの?って感じですけど…、

タバコを吸いながら必死に涙を堪えるあの青木崇高さん演じる旦那のまなざし。

円らな瞳と一挙手一投足がまさに本作の弟役を演るために生まれてきたかのようでありながら、キャラクターの精神性みたいな部分も完全に核心を掴みきっているように見え、最後の最後にせきを切ったように爆発する車内シーンまではやっぱりひたすら抑えた引き算的なアプローチで演じ続けた森優作さん。

相反する感情を制御できずにのみ込まれそうになりながらも自問自答しながら必死に葛藤する様を、無言の雄弁さで虚空を見つめる表情で度々顕し切った中村倫也さん。

やっぱりみんな「引き算」的発想・表現方法から生まれているような気がしました。

それに対して石原さとみさんの演技メソッドは…、というかアプローチの仕方は各シーン・各動作、必ず何かを足すんです。演ろう演ろうとするんです。

典型的な足し算のお芝居のテンプレとして
よくある…、

苛つく芝居は→貧乏揺する。
焦ってる芝居は→台詞を吃らせる。
感情を爆発させる芝居は→叫ぶ。鼻水垂らす。
懇願する芝居は→高速でペコペコする。
ヤクザの芝居は→ポケットに手突っ込む。
演技派女優転向への芝居は→おチチ出す。ミルクじゃないですよ、おっぱいです。

とかがあると思うんですけど、けっこう劇中で石原さとみさん…これらやってません?

あと、むかしから巷では石原さとみさんの過剰気味なお芝居がよくイジられている印象があるんですけど、私的には本作のようなシリアスさを意識したお芝居よりアニメ的に誇張された「ガッジーラ」や「こんなの初めてー」に代表される2.5次元的なお芝居の方が逆に合っていると感じていて、むしろ本作のようなシリアスなお芝居をした場合、泣く芝居はめっちゃ泣く、怒る芝居はめっちゃ怒る、イラつく芝居はめっちゃイラつく、という風な一本調子な熱演になりそうだと危惧してたらやっぱりなってました。

あと、彼女のお芝居の癖として「自然なお芝居やってる感を出すために必ず意図的に非演技的なナマっぽい言動・所作を挟んだお芝居をする、それが最も不自然でクサくなる要因」
というものがあると思うんですが、それって足し算的アプローチや癖の最たる例で、それをやればやるほど自然とは程遠い不自然なお芝居になる。という悪循環を生んでしまっている気がしました。
この文章で具体的に伝わらない場合は木村拓哉(何故か呼び捨て)のお芝居を思い出して頂けると想像し易いとおもいます。
似てません?このお二人の演技のアプローチの仕方が。なんかちょくちょく挟んでくるんですよ。不自然な自然さを…。

そして吉田恵輔監督の演出にもかなり「足し算」を感じました。元々この監督の意地の悪さ・露悪趣味っぷりがどーにも苦手だったんですけど、マシとはいえ今作もやはり「軽薄に見えて実は誠実に映画と向き合ってるようでいてやっぱり根が軽薄」という作家性が出ていたと思いました。

「足し算的演出」の最たる例を三つ挙げると…、

1. TV局の協力を断った矢先、やっぱり思い直してTVカーを追いかけていくシーン

バンに向かって追いかける石原さとみ越しのショットがあって、ゾンビのように車窓にへばりつき懇願する狂気に満ちた必死な形相の石原さとみを車内越しのショットで繋いだシーンで、セリフをずっと叫ばせながらバンへ追いかけさせるんですよね…。過剰です。ただ必死に走って行く。でイイでしょ?これ絶対足し算的演出で、その割に効果は半減なショットだと思いました。
この一連は車内越しのショットだけで、必死の形相だけど声は聴こえない。無音。でも必死に走ってくる石原さとみさんも、窓にへばりつき切羽詰まった形相で叫ぶ彼女も無音だけどカメラはしっかり捉えている。最早ゾンビのように映る。で充分なのになぁ…と残念でした。

2. 失禁するシーン

これです!!このシーンが一番残念な足し算的演出でした。もー!チョー残念!!
このシーン、失禁がちょうど良いサイズ感でわかるショットだったのに、そこから更に寄りのサイズが入るんです!これ絶対蛇足ですよ!「見て!ちゅーもーく!ほら失禁っ!!」ってカメラが念押してくるみたいなショット!これで興醒めもイイとこでした。

3. 手持ちカメラのやたらにユラユラしまくるショットが頻出する

揺れれば揺れるほどカメラ感を意識して、最早実際に誰かが持って映してるカメラ越しに出来事をその場で見てるかのような錯覚に陥ってしまうほどの演出過多

あと、商店街で口ゲンカしてる二人の脇を石原さとみさんが通り過ぎてからのー。のシーンとかも演出・演出しててなんか演出感が過剰に前面に出て来て余計なチープさが生まれてる気がしました…。

あの失禁の精神状態のピークから「二年後」の彼女が意外と保ち直している感を強く感じたのも少し違和感がありました。全然保ち直しているわけではないんだろうけど、あの失禁の精神状態だと絶対二年保たないだろうと思ったのでやっぱりあの失禁シーンはインパクトは強かったんですね、やっぱり。

もう一人の女の子が保護されたニュースを見た石原さとみさんのあのシーンは素晴らしかったですね!
あのシーンは泣いちゃいました!

ただやっぱり…、こと演技お芝居って部分で言うと、今年(あくまでも私にとっての今年だけど)日本映画ではやっぱり私は既に

杉咲花さん
門脇麦さん
石橋静河さん を観ちゃってるし、

ハリウッドではエマ・ストーン。

壊れてしまった女性のお芝居という観点から映画史的に見るとやっぱりなんと言っても
ジーナ・ローランズを観ちゃってるからなぁ…。

だからって別に石原さとみさんがどうとかはないんだけど…。

でも、男優さんとして青木崇高さんがここまで凄い役者さんだとは正直見抜けませんでした。ほんとーに本作で凄い!と拍手喝采いたしました。
感動しました!ありがとうございました。

【追記】

お芝居が上手いか下手かを選別するための手段として、本作劇中の(何でもないようなことが幸せだったと思う)のシーンを毎回キャスティングオーディションで使うってのはアリかも!って思っちゃいました。

と、いうのも劇中におけるあの設定であの台詞をホントの意味で自然に(演じる上であの歌詞を内心で念頭に置かず)言うのってかなり難しいと思うんです!だって設定上あの劇中の人物はついつい無意識に口走ってしまうわけだから、演じる役者さんは言ってみれば「意識的に無意識の芝居」をしなくてはいけない訳です。言いたい事伝わりますかねぇ?
でも、本作における、主人公が発してしまうあの言葉を言う演技をしてる石原さとみさんはその後の展開に引っ張られて完全にあの台詞にある種の「節まわし」というか「意識」をつけて発語しちゃってるんです。だから「偶然言ってしまった」というお芝居が実はあまり成立していないんです。
これは本当に演技テクニックが必要なシーンだなぁと思いながら私は本作を観てました。「杉咲花ちゃんならどんな風にこの台詞言ったのかなぁ?」なんて考えながらこのシークエンスを観ちゃってたんですよね。