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ミッシングの708のネタバレレビュー・内容・結末

ミッシング(2024年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

精神的にとてもヘヴィできつかったです。撮影中、役者さんたちはかなりヘヴィだったと思います。𠮷田恵輔監督の作品って実話ではないけれど、実際にありそうな題材をリアルに描いたものが多いので、違和感が一切なく刺さりまくります。虎舞竜のくだりは普通なら笑えるんだけど、さすがに笑えませんでした。

石原さとみは大手の事務所がお膳立てをしたお飾りドラマ女優…という印象が強かったので、正直興味がなかったのですが、いやぁ、この作品での彼女は壮絶でした。化粧っ気がなく唇は荒れて髪はボッサボサ、頬に枕の跡がついたままで、いきなり絶叫するわ、わめき散らすわ、泣き出すわ、鼻水も失禁もという感じで、こんな激しい芝居ができる方なんだと見方が変わりました。かなり衝撃的です。「ヒメアノ〜ル」での森田剛のように、凄い部分が引き出されたという感触がありました。ちなみに撮影中はリップクリームを塗らず、髪の毛はボディーソープで洗い、ジム通いを控えて添加物の多い食べ物を食べていたそうです。

青木崇高演じる豊が喫煙所で娘に似た女の子を見かけたときに、目を真っ赤にしながら煙草を吸うシーンや、行方不明だった別な女児の母親から協力の申し出をされたとき、抑えに抑えていた感情が溢れ出して、堰を切ったように泣き崩れるシーンにはグッときました。ずーっと感情を剥き出しにしていた石原さとみ演じる沙織里とは対照的なんだけど、そのコントラストが物語の起伏となっていました。こういう旦那さん、本当にいいと思います。っていうか青木崇高、とっても良かったです。

石原さとみも青木崇高も凄かったのですが、弟役の森優作もかなり凄かったと思います。姪っ子がいなくなってもまったく悲しくなさそうに見えるんだけど、実は感情を出すのが苦手という不器用さ。気にかけているからこそ、犯人らしき人物の家を探りに行く勇敢さや責任感。三者三様でまったく異なる感情の動き方や表現の仕方がかなりリアルでした。

とにかく番組の視聴率を上げることを最優先して、取材対象を餌食にするマスコミによる偏向や捏造めいた報道の在り方、ネット上での誹謗中傷とかイタズラ電話は二次的な悲劇としか言いようがないです。今時のわずらわしさ。協力者の素振りをしながらも、どこか興味本位で引っ掻き回しているだけの人が多いのも、現実なんだろうなと思ってしまいました。そんなマスコミの中で複雑な気持ちを抱えて葛藤する中村倫也も良かったです。

行方不明になった他人の娘を心配し、そのためのチラシを配り、その子が発見されたときに心から喜ぶ沙織里の人柄には心が救われました。たとえ自分が不幸でも、他人の幸せを喜べるということの大切さ。今の時代に必要なことだと改めて気づきました。

折り合いがつかない・つけられない状況において、どう折り合いをつけるか・つけられるのかを描いた物語なので、結局、美羽ちゃんは見つからずに進展がまったくなく、ずーっと絶望的なままなんだけど、壁の娘の落書きに光の反射で現れた虹をふと見つけたり、新たな協力者が現れたり、ネットでの誹謗中傷の発信元が特定されたりなど、希望の兆候やサインのようなものが微かに現れ始めたかなぁ、と思うところでバシッと終わるのが、𠮷田恵輔監督らしいなぁと思いました。

気にならない程度にカメラがずっと微妙な手ぶれ状態だったので、それが不安感やざわつく心の煽りになっているように思えました。​​
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