ごんす

ミッシングのごんすのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
4.6
折り合いをつけられない人の苦しみと怒りをまざまざと見せつけられる。
吉田恵輔監督らしい地獄巡りだったけど過去作に比べると意地悪な所は少なかったような(あったけど)

自分は石原さとみの演技や出演映画が今まで苦手で序盤はいつもの石原さとみじゃないという主張が強すぎないかと感じた。
これはスターの宿命であり自分の性根の問題でもある。
しかしわりと早い段階で石原さとみがどうのとか関係なく沙織里として観ることができるようになり、前評判通りの圧巻の演技だった。単純な私はすっかり石原さとみ大好きになりましたとお伝えして微ネタバレあるかもしれないレビューです↓














































自分が味わった理不尽な仕打ちを追いつめられた時には自分も他者へしてしまうという本当に身近にある地獄。
弟へメッセージを連投する沙織里の姿は観ていて本当に辛かった。

多面的な登場人物だったりレッテル貼りの恐ろしさや人をカテゴライズして語ることの愚かさなど描く作品が最近多いけど本作はスマートにそれらもやってみせている気がする。

勝手に姉弟は元々不仲だったのかもと思い込んでたし弟もその日はしぶしぶ姉の娘を預かったのかもと無意識に思っていた。
追いつめられ続ける沙織里を見ていたので沙織里という人間の見方をこちらが決めつけてしまっていたのかもしれない。
妊婦の人や別の誘拐事件で保護された女の子のこと嫉妬してしまわないかとか。

吉田恵輔作品は男性キャラクターに比べると女性キャラクターの描き方が少し古く感じたり記号的に感じる時もあったけど今回はそういうことはなかった。
この辺は石原さとみの力が大きいと思うし吉田監督の脚本といつもの吉田映画に合いそうな俳優が沙織里を演じていたらこのバランスにならなかったと思う。

最初は弟が主人公の話を書いていたというのも納得でかなり彼に着目させられた、というか森優作が終始凄すぎる。

沙織里も弟の圭吾もテレビ局記者の砂田もそれぞれ車の窓ガラス越しや職場で何を言っているか分からないがハッキリと口を動かしているのが分かるシーンがある。
本当の声こそ何を言っているのか分からないし一枚壁を挟んでいないと言えなかったりする。

対称的に声のでかいクレーマーの「ヤクルト1000なんでないの」や「お前がぶつかってきたんだろ!」みたいな通行人同士のトラブルや文字としてハッキリ認識できる中傷コメント。
この声の大きな者たちも客と店員、見知らぬもの同士、ネット上などの壁があってこそ大きい声が出せるのだろうか。
作品全体からディスコミュニケーションが生じている様を見せられる。

終盤沙織里が弟へ送る動画は効果的だった。
またこれが短いメッセージと動画だけというのが良い。
その前には姉からガンガン追いつめられる言葉が送られてきてるのが見えるのも含めて凄い良いシーンだった。 

なんと言っても笑うしかない車内のシーンは見事でトラジコメディとしても秀逸。正に泣き笑い。

子供が唇をぶーってやるやつを最後沙織里もやったのはまずは愛しいものを愛しいとだけ思える心境になってきたのかなと解釈した。
今後もどうしているか気になる登場人物達だった。
ごんす

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