てっちゃん

ぼくたちの哲学教室のてっちゃんのレビュー・感想・評価

ぼくたちの哲学教室(2021年製作の映画)
4.5
気になっていた作品だったんです。
シネマテークで上映されることを気にしていたけど行けなかったやつです。
とても評判が良いっていうこと、多く耳にしました。
連日満席みたいだし、時間合わせるの難しいなと感じていたのもあり見逃していたのです。

でも、前から気になっていた地方のミニシアターで上映してくれることを知りました。
これは観ると良い作品だと思うので行きませんか?とお誘いしたところ、断る理由がございませんとお返事を頂いたので、喜び勇んで観に行きました。

ミニシアターなのに珍しくネット予約できたので、発券機で発券して、座席に座ろうとしたら、座席にラミネートされた"予約席"が2つ仲良く並んで置かれておりました。
思わず"かわいいな、おい"とにやりとしてしまい、席に座って暫くすると、館主さんっぽいおじいさんが"予約席"を回収しに来てくれました。
シアター内にお手洗いがあったのも驚きました。

地方のミニシアターも面白いなと思った瞬間でしたし、この文化は残していかねばいけないと思い、絶対また来ようと思った次第です。

さてさてようやく本題ですが、本作の理解を深めるためにパンフは必読かと思います。
というか本作パンフの完成度が非常に高いんです。
出演者の方達への丁寧なインタビューはもちろん、来日した際の様子、さらにはベルファストの歴史について、どのような現状の社会問題があるのか、、などなど読み応えたっぷりで、読み物としても大変素晴らしいです。

私は本作を観てから、心掛けるようになったことがあります。
それは相手のことを知ろうとすること、もうひとつは自分の感情の正体を知ろうとすること。

恥ずかしながら、私はどうしてもふと思い立った自分の感情に支配されがちなのです。
後に冷静に落ち着いて考えてみると、そんな大したことなかったのにとか、もう少し角度を変えて考えてみるとだとか、初期の自分の気持ちというのはそれはそれで本物であると思うのですが、それをもっと考えないといけないと思うんです。
なにせ人は考える生き物ですので。

本作の生徒たちも、自分の最初の思いに捉われています。
最初の思いに捉われてしまうと、あとはすっきりするまでその思いを解放しないといけません。
解放しないと、ずっと不安だからです。

そこでケヴィン校長が出てきて、なぜそのような気持ちになったのか?と問いかけてきます。
どんな思考をしていって、その気持ちに辿り着いていったのかを考えさせます。
考えさせていくなかで、相手の気持ちを併せて考えさせていきます。
だんだんと落ち着きを取り戻した生徒は、素直に自分の非(どうしてそのような行動をしたのかを考え始める)を認めます。

さっきまで歪みあっていた空間が、少しずつ解け合っていくのがわかります。
表情が変わっていくし、身振りも変わっていくし、口調だって変わっていきます。

ケヴィン校長は何度も何度も生徒に問いかけます。
考えさせます。
なぜ?と問いかけ、自分の気持ちの正体を理解させ、それを口に出させます。
人と人が対話をする、会話をするということが、どれだけ難しいことなのか、お互いの向き合い方、考え方ひとつで変わるのだなと気づかせてくれます。

負の考えに押しつぶされそうなとき、どうする?とケヴィン校長が生徒たちに質問をします。
するといろんな答えが生徒たちから返ってきます。
ケヴィン校長は、その答えを一切否定しません。
否定せずに、どんどんと深め合っていき、答えを書き連ねていき、たくさんの考えがあることを見せます。

それまでひとつだった答えが、たくさんの答えになり、そのひとつひとつの考えを受け入れようとします。
これが本作の真髄であると思いました。

本作を観てから、なぜ?と思うようにしました。
なぜ自分はこういう気持ちになるのか?、相手はなにを思ってその行動言動をしたのか?、自分はなぜその行動言動が気になったのか?、相手の思いを知りたいと思うようになりました。
会話をしたいと思うようになりました。

私が常々感じている"考える"という行動の意味合いがより深まったそんな作品でした。
生徒が言っていた、指の輪郭を指でなぞるやつ、私も真似させてもらっています。

映画というのは、人生の楽しみをくれると思っており、ときには生きていなかで大切なことを教えてくれるものだと思います。
本作は私にとってそのように感じることができた大切な1本となりました。
観に行けて本当によかったな。
てっちゃん

てっちゃん