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蟹から生まれたピスコの恋のTnTのネタバレレビュー・内容・結末

蟹から生まれたピスコの恋(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

 「トゲトゲTV」出演陣で構成された短編映画。番組寄りではなく、ちゃんと短編映画としてオモロい。

 監督は「そうして私たちはプールに金魚を」の長久允。「そうして〜」と同じく第四の壁を越えてこっちに語りかけまくってくるスタイルだが、説教臭さは無くなったし、トゲトゲしさも無くなって見やすくなっていた。また、客に語りつつシチュエーションを演じるという行為それ自体お笑い芸人との相性もよく功を奏していたと思う。テーマも一貫しているのか、この世で生きづらい女子の、それでも生きてくんだバカやろーみたいな物語だった。トゲトゲメンツ、特に加納自体が尖りまくったネタしてるだけあって、教師への怒りの吐露と、ラストの歌(加納はジッタリンジンを意識したとのこと)の爽快さなど、突き抜けていく主人公役にピッタリだなと思った。サーヤとマキちゃんはなんか、見た目の偏見からそのままな役でしかなかったけど笑(とはいえギャルとお母さん、似合いすぎ)。

 蟹から生まれ、ピースの格好で写真を撮るからピース子、ピスコ。良い設定すぎる。ピースで写真を撮ってしまうからといって、「だから蟹の子」という設定に至ったのがすごい。ファンタジーっぽくもあるしコメディでもある。それでいて寓意であり、蟹は所謂差別されるマイノリティの象徴なのだ。教師の男に惚れたピスコは、卒業して結婚を申し出ると、蟹の子と結婚はできないと断られる。蟹はあらゆる差別と入れ替え可能だ。また、蟹が父であると思い込んでるだけとも取れて(例えば母が離婚し、父の不在を娘に隠しているなど。イマジナリーファザー)、それを見守る親友の久保佳代の優しさなんかが窺えるのも良い。蟹、それは優しい嘘なのかもしれない。 
 蟹を殴って血が出るピスコ、親に歯向かうことと大人に一歩なることの重なりみたいのを感じたりした(「お引っ越し」でも、母と娘が喧嘩の際に血が交わされるシーンがある。親子関係の軋轢と裏腹に、そこには切っても切れない血の繋がりがあるということが視覚化される)。

 手持ちビデオカメラで全編撮られていて、歪みとかガクガクズームとか味がある。ピスコの教師への反抗のズームアップが、ピスコを画角に収め切れない感じとかのカメラワークも良い、はちきれん怒りがモーションとして伝わる。北海道旅行回想シーンの学生映画っぽさもビデオの質感相まって良い。ラストの平成初期辺りの音楽とビデオという平成味がリンクしてエモい(結局青春のエモーションは映画という媒体より音楽に一番ノる)。ブルーシートに転がり回って歌うピスコの赤い服は、海と蟹のようだし、ビビットカラーになっててビデオって色を強調してくれて良いなと思った。綺麗なカメラで綺麗に撮ることが、そもそもテーマに反するわけで、ビデオというメディアを選択したの適切だなと。ただ出演陣の顔が、テレビ的でない素っぽさを曝け出してて、ギャップが結構あった。綺麗じゃなくていいが、美しくは撮ってあげてほしい気もする。

 「愛とか言う人間じゃなかってんけどなぁ」。
ピスコの歌う歌詞の中でそう呟かれる。
それは「そうして私たちはプールに金魚を」での嫌悪感の吐露の裏返しとも言えて、今作はその嫌悪感で隠してた「愛とか言う」ことを恥ずかしいと思わずに認めていく作品だったと思う。ラストにカメラのシャッター音と共にフラッシュが焚かれる時、久保佳代とピスコの関係性はスクリーンの画面と見ている私たちの関係性に繋がる。そのフラッシュは、私たちの優しさを捉えようとする優しさだ。ピース✌️
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