おいなり

ネクスト・ゴール・ウィンズのおいなりのレビュー・感想・評価

4.1
「弱小スポーツチームを落ちぶれた元名監督が立て直す」という、筋だけ聞けばこの世に800本くらいありそうな映画だが、ワイティティ印がつけばこんなにもラブリーな映画に。

タイカ・ワイティティの映画はいつも、コメディに見せかけたニコニコ笑顔で近づいてきて、いざ家に上げたらいきなり後ろから後頭部を殴りつけられるような衝撃がある。
今回もその「瞬間」はあるのだけど、そのシーンに差し掛かると走馬灯のようにそれまでの各々のキャラクターの振る舞い、不必要に苛立っていたり、人生に行き詰まって絶望していたり、その理由が全て繋がって、ああ、本当にこの監督は残酷なんだな、と思わされる。
そして、底なしの絶望から、いつも最後は救い出してくれる優しさも併せ持っている。まるでDV彼氏のような離れられなさが、タイカにはある。


タイカ本人=この世界の神が自ら語るように、「奇跡」というものは存在する。
でもそれは、アイドル俳優主演の邦画が毎週謳っている「奇跡の物語」のような、まるで降って湧いたような作劇の都合による筋書きではなく、築かれた信頼・愛情・そしてそれらに背中を押されながら自ら一歩を踏み出す勇気(たとえ踏み出した先がぬかるんだ水たまりでも)、そう言ったものの「結果」であるのだと、そういう地に足ついた結論を一本の映画を通して描いていて、本当にチャーミングな、大好きな映画だなと見終わってすぐ思った。



マイケル・ファスベンダーさんは、ここ数年ぱっとしない映画にばかり出ていたイメージだけど、本作序盤の草臥れた演技が、後半の展開に至る説得力を補強していて、派手な名演ではないけれど、間違いなく本作は新たな代表作になったと思う。
MCUにも出てくれるの待ってます。
おいなり

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