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ネクスト・ゴール・ウィンズのKのレビュー・感想・評価

3.7
1/3/2024 fri シネマイクスピアリ スクリーン2 F8 15:50〜
8-9でセンター。いつも8だったけど9の方がセンターかもしれん。


/メインの名前が出てくる米サモアの選手の物語であるものの、あくまで白人視点で描かれる話で、『ジョジョ・ラビット』が英語作品だと批判された時のように充分帝国主義的ではあるし、"第三の性=ファファフィネ"としてアイデンティティを持つジャイアのことをよく知ろうともしないハワイ人や敵チームから受けるマイクロアグレッションの描写や葛藤の浅さ、などが批判されていることは勿論その通りだと思うしもっと出来るだろうとも思うんだけど、作品全体はミニマルで一貫したテンション感が保たれており、観ていて心地よかった。ワイティティの得意とするゆるい人情劇コメディとして力を抜いて観られる良い一本。

全体的な描写の浅さって、勿論不完全燃焼なイメージも受けるんだけど、良くも悪くもワイティティの平和主義者たる面が出ていて、そういうところが彼を嫌いになれない理由なんだよな。日和ってたり媚び諂ってるとも言えなくもないんだけど、創作に対してそんなに丸い人ではないと思ってるから。結果として白人酋長ものになってはいたものの、"White saviorはお断りだ"って台詞を出してたように、構造上の問題は当然理解しているだろう。


/プロデューサーにアンディサーキス、劇伴はマイケルジアッキーノと案外ビッグネームが参加している……。

/ファスがワイティティ作品に出てるの意外だよな〜と発表時から思ってたんだけど、超神経質な監督としてのハマりっぷり凄かったな。これくらいのテンション感の映画にももっと出てほしいな〜!
しかしデカめのファスも米サモアの選手役キャストに囲まれるとちいこくて笑けた。


/チームのためにホルモン剤を絶ったが、そのためにアイデンティティがおかしくなってしまった、と公式戦前にジャイアが泣くシーンがある。それをトーマスが"統率が取れるのは君だけだ"とCaptainと書かれたリストバンドと共に励ます。優しいな、と思う。なぜそんな無茶をしたのかと責め立てることもなく。世界がこうあってほしい。トランジションとそれに伴うつらさなんて当事者にしか理解できるものではないんだから、我々にできることは全力のサポートと、認識を変えることだけだ。

前提として、ジャイアのことを当たり前にチームの一員としてチームメイトが共存しているのが良かったな。いや求められるべきたりめーの態度ではあるんだけど、まだまだまだまだ少数者への風当たりがクソ強い世の中において、大事な態度だよな〜と思うので。


/ペナルティを受けた選手が倒れた父親に熱っぽく勝利の過程を語り、歳を重ねた後年のキーパーが当時のことを自叙伝として子に語る、という演出も面白い。ワイティティ作品すぎる。

/ワイティティ、でかめの子供のことずっと好きなのめちゃくちゃ良いな〜

/コーチがまんまと影響されていた魚のマリネ、めっちゃ食べてみたいんだがどこで食べられる?


/『ボーはおそれている』の感想ラジオ(https://open.spotify.com/episode/12PW675OzswYGLbIltqW4O?si=vKmeBAtBSEiji3PSVrtP8Q)
で、"アリアスターは映画的な感動的なクライマックスではなく、極めて私的な苦しみを苦しみのまま続けていく"と評価されていたのを思い出したが、ワイティティの今作では"現実はつらく苦しいが、それでも楽しまなければ意味がない"というアティテュードを受け取ったのだよな。真逆なようでいてどちらも同じに感じる。続く苦しみ↔︎苦しみの中で続く人生の楽しさ。
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