ぶみ

白鍵と黒鍵の間にのぶみのレビュー・感想・評価

白鍵と黒鍵の間に(2023年製作の映画)
3.5
人生の隙間を音楽が埋める。

現役のジャズミュージシャンでエッセイストでもある南博が上梓した回想録『白鍵と黒鍵の間に ージャズピアニスト・エレジー銀座編ー』を、冨永昌敬監督、池松壮亮主演により映像化したドラマ。
昭和63年の年の瀬、銀座でジャズピアニストを目指す博と、敏腕ピアニスト南が過ごす一夜を描く。
主人公となる南と博を池松が一人二役、刑務所から出所したばかりの謎の男を森田剛、銀座を牛耳るヤクザの会長・熊野を松尾貴史、クラブのピアニスト・千香子を仲里依紗、バンマス・三木を高橋和也、アメリカ人シンガー・リサをクリスタル・ケイが演じているほか、松丸契、川瀬陽太、杉山ひこひこ、中山来未、佐野史郎、洞口依子等が登場。
物語は、バブル景気全盛の昭和末期の銀座を舞台とし、南と博、二人のピアニストの運命が交錯する一夜が描かれるのだが、未来を夢見る博と、未来が見えない南が相見える展開はなかなかトリッキーで、最初は理解ができなかったが、徐々に話が進むにつれ、何となく全体の設定が見えてきたため、そこがわかると面白さ倍増。
何より、登場人物の殆どが煙草を燻らせるため、全体的に煙がかったような映像は、前述のように観る側を煙に巻くような設定に合っており、当時のキャバレーやクラブの雰囲気にピッタリ。
また、南と博の間を繋ぐキャラクターも個性的で、特にキャバレーの中間管理職的な役割のバンマスを演じた高橋が、見た目といい、飄々とした雰囲気といい、ハマり役。
加えて、時代設定が昭和末期であることから、ピンク色の公衆電話が登場したり、ラジカセが思いのほか活躍したりと、小物が昭和感をしっかり出していたのは見逃せないポイントである反面、一瞬映ったクルマが、当時ではあり得ないモデルのトヨタ・クラウンであったり、私の見間違いでなければ、ナンバーの分類番号が既に三桁になっていたりと、クルマ関係の時代考証が甘かったのは残念なところ。
ジャズは詳しくないものの、エンドロールのピアノ演奏の欄に池松本人がクレジットされており、彼が奏でるピアノや、クリスタル・ケイの歌声が、銀座の夜にピッタリであるとともに、トリッキーな構成のジャパニーズ・ノワールにコメディやスリラー要素を散りばめ、観る者を煙草の煙で満たされたキャバレーに誘ってくれる怪作。

人は音楽のもとに平等。
ぶみ

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